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【書く人】

「システム」で動く歴史 『近現代日本史との対話』(全2冊) 日本女子大教授・成田龍一さん(67)

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 歴史は社会の構造が決定するのか、あるいは民衆が動かすのか。本書は、その両方を取り込んだ「システム」という考えをもとに日本の近現代史を描く。人間関係や社会の仕組みなど、人びとのつくる一つのまとまりのある流れがシステムで、国民国家の形成から帝国主義への展開をシステムA、総力戦と高度経済成長の時代をシステムB、オイルショック後の新自由主義を基調とした現在をシステムCと位置づけている。

 「幕末・維新−戦前編」「戦中・戦後−現在編」の二冊で、計千ページ余り。なかでも興味深いのは、一九四五年八月十五日を日本の新たな出発点と捉えるのではなく、戦争に向けて国力と資源のすべてを動員した総力戦の時代は敗戦後も続いたとする見方だ。「占領軍は総力戦の指導者たちを処罰したけれども、その一方で、明治以来の制度を変革しようとした彼らの政策を継承します。人びとの側も、今後は戦争ではなく経済の面で日本を良くしようとして自発的に動員され、それが高度経済成長をもたらすのです」

 システムが厄介なのは、ひとたび動きだすと、それをつくった人の手を離れ、しばしば思いもかけぬところへ向かうこと。そしてそれは、四年間戦って中国に勝てなかった日本がなぜ、はるかに国力の勝る米英との戦争に踏み切ったのかという疑問にも答える。

 「満州事変を民衆が熱烈に支持し、新聞やラジオなどのメディアがさらに煽(あお)る。大阪の主婦の呼びかけによって国防婦人会が結成されると、あっという間に全国に広がっていく。民衆が善かれと思ってやっているうちに排外主義が盛り上がり、動員の体制と結びついて対外膨張路線に行き着いてしまった。男性だけとはいえ、当時も普通選挙権があったのだから、民衆が戦争に反対する人をもっと当選させていれば、そう簡単に戦争に突き進むことはなかったと思います」

 この問題は現在の状況と重なって見える。自己責任が求められる社会で格差が拡大し、努力しても上昇できない人びとの不満が鬱積(うっせき)している。ヘイトスピーチが横行する…。成田さんはこんな<いま>の危うさを指摘し、「システムDに移行している。それは排外主義、統制、監視を特徴とする右派ポピュリズムの時代です。転換期のただなかで始まる令和の時代を見据えていきたい」と話す。

 集英社新書・戦前編一四〇四円、現在編一五一二円。 (後藤喜一)

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