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【書く人】

諦めない医療を描く 『新章 神様のカルテ』 医師、作家・夏川草介さん(40)

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 信州の若き内科医、栗原一止(いちと)がさまざまな患者と向き合う人気シリーズ『神様のカルテ』。四年ぶりの最新作は、大学病院が舞台となる。

 自身もかつて長野県内の大学病院に勤務した。巨大組織で、派閥や権力争いのイメージも強い。「確かに矛盾も抱えていますが、医師をへき地へ派遣したり、ぎりぎりのところで地域医療を保っているのは大学病院。現場を知る者として、良い面も悪い面も書いておきたかった」

 病床数の管理などルールを冷徹に掲げ、一止の前に立ちはだかる准教授が登場する。彼の根底にあるのも、地域と患者への思いだ。「個人の自由を度外視してでも、どうすれば地域医療を支えられるか追求する。大学の象徴のような人物」。大学病院とは何か、頭の中で議論する相手として、このキャラクターが生まれた。

 誰もが信念を持ち仕事に全力投球するが、決して天才医師が活躍したり、奇跡が起こったりはしない。「医療は無力です。そこで絶望せず何ができるかこそが、医者の仕事だと思う」。一止は幼い子を持つ二十代のがん患者を担当し、それを模索してゆく。

 現実に根差しつつ「あえて、理想を書きたい」と語る。「医療についてうそは書きませんが、社会や人間の汚い部分を強調しようとは思わない。そんなものは生きていれば自然と見ることになりますから」

 現場で患者のためにできなかったこと、かけられなかった言葉を作中の医師に託すこともある。「後悔や疲労で限界を感じてきたときも、一止たちの物語を書いていると、何のために医者になったかを見つめ直して踏みとどまれる。自分が初心に帰れる部分もあります」

 山とお酒と文学も、医師や患者たちに負けない存在感でシリーズを彩ってきた。病院のヘリポートから望む残雪の北アルプス。なじみの居酒屋で味わう銘酒。主人公が心に刻むダンテの言葉。どれも、自身がこよなく愛する存在。「心のバランスを取り戻させてくれます」

 デビューから十年を迎えた。今も深夜までの勤務や宿直をこなし、半日ほどの休みが取れたときにまとめて執筆する。「自分は作家である前に内科医だと思っているし、そうあり続けたい」。まっすぐな目で言い切った。

 小学館・一九四四円。

 (川原田喜子)

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