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【書く人】

人と動物 豊かな関係に 『いのちへの礼儀』 野宿者ネットワーク代表・生田武志(いくた・たけし)さん(54)

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 日雇い労働者の街として知られる大阪市西成(にしなり)区の通称・釜ケ崎で三十年以上、野宿者の支援に携わる。貧困問題について発言を続けてきたが、本書では人間と動物の関係を見つめた。

 欧米では一九七〇年代以降、動物に対する倫理が問い直された。哲学者ピーター・シンガーは、人が動物を経済活動などの犠牲にしていることを「種差別(しゅさべつ)」という言葉で批判。動物の搾取を否定する「動物の権利(アニマルライツ)」の思想や、家畜が快適に生きられる飼育方法を目指す「動物の福祉(アニマルウェルフェア)」の取り組みが盛り上がった。

 「日本では『動物の権利』も『動物の福祉』も相手にされず、嘲笑すらされている。性差別や障害者差別への意識の高まりと比べると、異常な無関心です」

 原因は、歴史にあると考える。日本は古代から畜産が盛んでなく、明治維新を経て国家的に肉食を進めた。「畜産は最初から近代的な産業として導入された。食材でしかない動物に対して、その生き方を尊重しても意味はないという感覚が根付いてしまった」

 執筆のきっかけは、フランスの作家フロベールの小説「純な心」。愛する人を失った召し使いの女性がオウムに心のよりどころを見いだす物語だ。「釜ケ崎でも犬や猫をかわいがる野宿の人が多い。収入の半分以上をえさ代に使う人もいる」。人と動物との関係を探ることで「今ある世界とは別の可能性が見えるんじゃないか」と考え、十年を費やして本書を書き上げた。

 虐げられている動物の実例を挙げて「動物の権利」「動物の福祉」への関心を促すとともに、新しい倫理のかたちを模索した。「動物の苦しみをなくそうというシンガーの思想は、人と動物を引き離す方向に行ってしまう。それよりも、人と動物が豊かな関係を築けることに注目したかった」

 人が動物の立場に立ったとき、社会の冷たい姿が浮かび上がる。「野宿問題は国家の社会保障、労働市場、家族の相互扶助の崩壊によって起きる。動物問題も国家・資本(経済活動)・家族と密接に結び付いている」。例えば捕鯨問題は国家と、家畜の過酷な扱いは経済活動と切り離せない。

 「動物に寄り添うことは、まさに国家・資本・家族の歪(ゆが)みを考えること。動物と互いに尊重しあえる関係を築けたとき、人は社会を変革する筋道をつかめると思う」。筑摩書房・二七〇〇円。 (小佐野慧太)

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