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【書く人】

漫画世界 ぐっと身近に『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』 千葉大教授・中川裕(ひろし)さん(63)

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 いま、アイヌ民族への関心がかつてないほど高まっているという。大きな要因は漫画「ゴールデンカムイ」(野田サトル作)だ。明治末期の北海道を舞台に元兵士の杉元佐一(すぎもとさいち)、アイヌの少女アシリパらが活躍する冒険活劇。物語の軸は秘蔵の金塊の争奪戦だが、狩猟や料理、儀礼などのアイヌ文化が随所で作品を彩る。

 「アイヌはかっこいい、というイメージを生み出した初めての作品だと思う」。アイヌ語監修を務める中川さんは、こう評価する。本書は、そんな魅力的な漫画を豊富に引用したアイヌ文化の入門書だ。

 例えば題名にあるアイヌ語の「カムイ」。よく「神」と和訳されるが、動物などの自然に限らず、役立つものなら車やパソコンも「カムイ」なのがアイヌの考え方だといい、「環境」とも解釈できる。<「環境」と良い関係を保てれば世界がうまくいく><現代人にとって、とても必要で重要な考え方>といった解説で、ぐっと身近になる。

 監修を頼まれた当初は「変な作品を描かれて、本当だと思われたら困るな、と」。だが第一話の原稿を見て驚いた。「おかしいところがどこにもなかった。例えばアシリパの登場シーン。衣服の文様やマキリ(小刀)なども正確な描写で、私が教科書に使いたいほど」と全面協力を申し出た。

 この分野の第一人者だが、きっかけは偶然だった。東京大でアイヌ語とともにトルコ語も学んでいたが、その教材が入ったかばんを紛失し、アイヌ語に絞ることに。一九七六年に初めて北海道で「アシリパの少し下ぐらい」の世代の人々にアイヌ語を習い、「仕事にならなくてもライフワークに」と考え始めた。

 かつて自身もアイヌ語の漫画を含む同人誌を発行するなど、さまざまなメディアを通じてアイヌ文化の発信を試みてきた。「無関心からは何も生まれない、と言い続けてきた。何十年やってきたことの延長で『ゴールデンカムイ』に関わっていると考えています」

 来春には北海道白老(しらおい)町に国立アイヌ民族博物館も開館する。この本を読んだら「ぜひ現代のアイヌの姿に注目してほしい」という。「古老の間でほそぼそ受け継がれていると思われがちだが、今のアイヌ文化を担っているのは若い連中で、古老並みの知識がある。今こそ、いろいろなパフォーマンスをするアイヌの活動が出てきてほしい」。

 集英社新書・九七二円。 (谷岡聖史)

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