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【書く人】

表現の本質は、楽しさ 『線は、僕を描く』 水墨画家、作家・砥上裕將(とがみひろまさ)さん(35)

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 「小説の向こうに絵が見える」。そんな帯のコピーに頷(うなず)ける。両親を交通事故で失い喪失感の中にいた大学生・青山霜介(そうすけ)が、水墨画に出合い、魅了されつつ回復していく物語。読み手は霜介とともに水墨画へ理解を深めながら、美しく透明感ある世界へと誘われる。

 著者の砥上さんは、福岡県出身の水墨画家。昨年、面白いエンターテインメント作品を編集者が選ぶ講談社の「メフィスト賞」を本作で受賞し、今月単行本になって作家デビュー。水墨画は「大学生のころ揮毫(きごう)会を見に行き、面白かったのでいろいろ質問しているうちに引っ張り込まれちゃった」というが、小説は若いころ執筆を試みていたのを覚えていた知人の勧めで、再び挑戦。初投稿作が編集者の目に留まり、助言を受けつつ書いた三作目で晴れて受賞した。

 今作には「水墨画を描く上で大切に思ってきたことがたくさん詰まっている」という。主人公の霜介は、水墨画の大家から「水墨の本質はこの楽しさだよ」と教えられる。「絵を描くことは楽しいことで、苦しいことではないはず。それを忘れてしまうとただただ訓練や修業をしてる気持ちにしかならなくて、それらは絵を描くことの一部であってもそのものではない気がする。(描こうとする)自然に触れ、美しい景色に出合った時のワクワクも、楽しさという言葉に集約できる。それは人が何かをやっていく意味だとも思う」

 <絵を描くことは自分の考えや言葉から抜け出すこと>−。丁寧に紡がれる作中のせりふに、幾度となく思索を投げかけられる。「実際に生きてみることで変わることって多分ある。そこに入っていくには、悩んでいる人は言葉から抜け出した方がいいと思うんです。毎日鬱々(うつうつ)として状況がひどくても、ちっちゃい楽しみってきっとある。それを見つけたり、それに出合う楽しみが生まれるのを感じたりしてもらえれば、と」

 「自然や人との関係とか、伝統文化に触れる機会や時間を大事に思ってもらえたら」という気持ちも込めた。今後は「明るい話や温かな気持ちになれる話を書いていきたい。クスッと笑えるものでも、ささいなことでも『人ってこういうとこがあるよね』っていうものに気付いて書けたら、うれしいですよね」。

 深いまなざしが印象的。これから何を見つめ、書いていくのか楽しみだ。

 講談社・一六二〇円。 (岩岡千景)

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