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【書く人】

『土 地球最後のナゾ 100億人を養う土壌を求めて』 土の研究者・藤井一至(かずみち)さん(37)

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 世界には、全部で十二種類の土がある。それぞれが分布する地を訪ねては、増え続ける人類を養える肥沃(ひよく)な土を探す。一見地味な研究をユーモアを交えてつづり、第七回河合隼雄(はやお)学芸賞に選ばれた。

 「(臨床心理学者の)河合先生が展開した文化論とは程遠い、泥くさい日々を送っている。でもカルチャーの語源は土を耕すこと。ご遺志を力に、明日もスコップを握りたい」

 私たちの足元に広がる土だが、実はわかっていないことが多い。例えば日本の三割を占める「黒(くろ)ぼく土(ど)」。同じ種類でも栃木と群馬は黒く、茨城は茶色い。八年前、京都大から森林総合研究所(茨城県つくば市)に移り、関東の地面を掘って気付いた。「でも違いの理由を聞かれても明確に答えられないんですよ、土の研究者なのに。難しいから、面白いんですけれど」

 本書の前半では、全種類を見に行く旅が詳細に描かれる。そこで知るのは、小麦などを豊かに実らせる土がある一方で、ハクサイが一個千八百円にもなるほど作物が採れない土があるということ。「土は親きょうだい並みに選べない」。人々の生活や文化に、土がいかに影響を与えているかを伝える。

 後半に語られるのは、土に対する社会的な関心が薄い故の危機的な状況。世界中に農地は十六億ヘクタールしかないが、これから人口は百億人に達すると見込まれる。岩石などから土ができるまでには時間がかかり、日本では百年で厚さ一センチのペース。対して「人間が農業をすると土を悪くし、平気で一年で一センチがなくなる。毎年、世界中で岩手県くらいの面積が駄目になっている」。どうしたら土を長く使えるか、悪い土を良くできるか。相棒のスコップで国内外の土を掘り、考え続けている。

 富山県立山町に生まれ、小さいころは石ころを集めるのが好きだった。後に、土は石ころがもとだと知り「似ても似つかないものができるなんて」と興味を抱いた。高校時代に関心を寄せた食糧問題から京都大農学部に進み、ある日、古書店で植物学者・中尾佐助の『栽培植物と農耕の起源』と出合う。植物から文化や文明の成り立ちを読み解く内容に「土でやってみたら…」とわくわくし、土壌学に進むきっかけとなった。「土をもっと知りたい。知りたいことが終わらないから、ずっと研究をしています」。光文社新書・九九四円。 (世古紘子)

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