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【書く人】

働く妻、母として強く 『クララ・シューマン』 音楽評論家・萩谷由喜子(はぎや・ゆきこ)さん

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 音楽史上、最も名の知られた女性に違いない。クララ・シューマン(一八一九〜九六年)。作曲家ロベルト・シューマンの妻であり、八歳でデビュー以来、半世紀を超えて演奏活動を続けた歴史的名ピアニスト。二十以上の楽曲を残す作曲家でもある。生誕二百年となる今年、そのパワフルな生涯を一冊に書き下ろした。

 「いつの日かクララの伝記を書きたい」と長い間願い続けてきた。音楽に携わった女性たちに強い関心を持ち、「女性音楽史」なる言葉を生み出して関連する著作も複数ある。自身も小学生時代に子ども向けに書かれたクララの伝記を読んでいた。

 その底本になっていたのが一九四一年に刊行された原田光子著『真実なる女性 クララ・シューマン』。本国ドイツで書かれた伝記を基にしたロングセラーだったが、原田さんの弟が萩谷さんの父と大学時代の親友だったという浅からぬ縁があった。「七十八年たってバトンをつなげた」と感慨ひとしおだ。

 クララの伝記はこれまで数多く出版されてきたが、ほとんどがロベルトとの恋愛と、自分をピアニストに育てた父に反対されながらも結婚に至る困難な道のり、ロベルトとの死別までが主体だった。「ロベルトの死後、クララは四十年生きているのにそちらにあまり言及していない。七人の子を持つ母親としてつらいこともあったけれど、素晴らしい女性だったと言いたい」と七十六年の生涯を書き通すことを意識した。

 クララはロベルトの生前も死後も大家族の家計を支えた。ロベルトの才能を誰よりも愛し、プライドに配慮しながらも<金のための仕事などさせたくない>と心を砕き、ドレスデンで革命騒動が起きた際には<何が何でも彼を兵隊にとらせたりはしない>と妊娠七カ月の体ながら脱出劇に奔走する。六十五歳になっても病気の三男とその妻、六人の孫の面倒を見ている。

 ロベルトの死後、クララを支えた十四歳年下の作曲家ブラームスとの関係は世間の関心を呼んできたが「私なりに答えを出したつもり」と萩谷さん。本の帯には<10歳から読める>とあるが、大人なら行間から読み取れる世界がある。

 随所に挿入されたQRコードをスマホで読み取れば、関連する曲の冒頭が試聴でき、音楽への関心をつなぐ。ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス・一七二八円。

 (矢島智子)

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