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【書く人】

平成の闇 追体験『Blueブルー』 作家・葉真中顕(はまなか・あき)さん(43)

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 三十年余にわたる平成という時代を横断する長篇小説だ。

 バブル経済の崩壊、少年犯罪、児童の虐待と貧困、東日本大震災…。災害や事件のほか、この期間に表面化した社会問題が、時に本筋に関わり、時に背景として描かれる。時代を象徴するヒットソングも随所に登場する。固有名詞を意識して多用し、「読者なりの記憶や体験を刺激するようなトピックをちりばめた」。読者との「共犯関係」をつくることで、一人一人の平成史に思いをはせてもらいたかったという。

 物語の中心となるのは、平成が始まった日に生まれ、終わりの日に亡くなった「ブルー」と呼ばれる無戸籍の男。彼が関わった殺人事件の真相を追う刑事と、聞き込みを受けた人たちの語りから、彼らが人生で直面した出来事が浮かび上がる。

 実習先で「地獄」を見るベトナム人実習生の女性、日系ブラジル人三世で同性愛者の青年…。年齢や国籍、立場もさまざまな人々が見た平成の闇を、追体験させられるようだ。

 事件や社会問題だけでなく、家族の絶望と救いをつづった物語でもある。「平成では昭和まで前提とされていたものが崩れていったと思うが、家族もその一つ」。登場人物の多くは、虐待や不和、子どもに愛情を持てないといった悩みを持ち、事件の真相にも家族が深く関わる。

 「家族は人間の共同体の最小単位。関わらずに生きられる人はほとんどいないし、問題の原因になることも多い。多くの読者にとっても切実な問題だからこそ、描きたい」。負の面に迫る一方で、多様なあり方を肯定する。母親や継父から虐待を受けてきたブルーが、血のつながらない他人と穏やかな日常を送る場面は印象深い。

 これまでの著作では、介護殺人やカルト宗教を題材に取り込み、社会派ミステリーを手がけてきた。昨年刊行の『凍(い)てつく太陽』は日本推理作家協会賞、大藪(おおやぶ)春彦賞を受賞するなど、高い評価を受けている。

 本作は、読者がどう受け止めるか不安だったという。過去作に比べて「ミステリーとして大きなサプライズがない」と考えていたからだ。幸い反応がよく、刊行から三カ月で重版された。「平成の最後にふさわしい一本を書けた」と手応えを語る。

 光文社・一八三六円。

 (谷口大河)

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