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【書く人】

この国が生み出した絶望 『東京貧困女子。』 ノンフィクションライター・中村淳彦(あつひこ)さん(47)

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 父親に奨学金を着服され風俗で働く女子大学生。介護離職をきっかけに、ヤミ金融で借金するまでに追い込まれた五十代のシングルマザー…。「東洋経済オンライン」の連載をもとにした三百五十ページの本の中に、希望は一つもない。

 大学生のころから二十年以上、AV女優や風俗業で働く女性の取材を続けてきた。二〇〇〇年代半ば、それらの職の報酬が下がり、生活できない女性が現れるようになった。インターネット動画の出現や、業界に入ってくる女性が増えて過当競争になったことなどが背景にある。

 「死のうかな」と漏らす女性もいて、実際死ぬ人もいた。ライターの仕事を中断し、介護の事業を始めたが、そこで働く人々もまた低賃金にあえいでいた。日本がおかしくなっているという違和感が膨らんでいるさなか、連載の話を打診された。

 八方ふさがりになっている女性たちの話にひたすら耳を傾けると、背後には国の制度のゆがみも浮かび上がった。

 奨学金という名の借金を抱え、女子大学生たちは風俗の世界に足を踏み入れる。学費は上がり続ける中、親の世帯収入は下落傾向にある。男子大学生も同様の事情で困窮し、風俗のスカウトなどになっている。「路上は取り締まりが強化されているので、大学内で勧誘しています」

 本には三十七歳の図書館司書の女性も登場する。専門職として誇りを持って働いているが、非正規雇用のため、生きていくぎりぎりの収入しかない。労働者派遣法の改正で二〇〇〇年代に非正規が一気に増え、官製ワーキングプアという言葉も生まれた。「国や自治体が積極的に貧困を生み出したことで、こういう人が日本中にあふれている」

 ウェブでの連載は一億二千万PV(閲覧数)を超える人気を集めている。「これまでちゃんと話が聞けていない分野なんだと思う」。貧困に苦しむ人々の置かれた環境が理解できていなくても、逆に過度に寄り添っても、心を開いて話をしてもらうことはできない。新聞記者にとっては、耳の痛い指摘でもある。

 男性優位の社会で、ひずみは貧困という形で女性により過酷に影響を及ぼしているが、今後その絶望は性別、世代を超えて広がるとみている。「今はまだ下り坂の真ん中だと思います」

 東洋経済新報社・一六二〇円。 (早川由紀美)

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