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【書く人】

絡み合う人間心理描く 『地面師(じめんし)たち』 作家・新庄耕(こう)さん(36)

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 七年前、ブラック企業の営業マンを描いた『狭小邸宅』で、純文学系の「すばる文学賞」を受け、作家生活をスタート。その後、社会の小暗い部分を照らしながら、少しずつ自作のエンターテインメント色を強めてきた。本作は、架空の土地取引で金をだまし取る詐欺師「地面師」が題材。「完全にエンタメ小説として書いた」と語る。

 着想は、二〇一七年に大手ハウスメーカーが被害に遭った実際の事件から得た。明るみに出たのは「そんなアホな」と耳を疑う古典的な手法。赤の他人が土地所有者になりすます。にわかに信じられないことがなぜまかり通るのか、気になった。取材した土地所有者ら向けの対策セミナーは盛況。今や身近な危険なのだと知り、関心を強めた。

 主人公は、親族の会社が倒産した後、大物地面師グループに入り、交渉役を任される三十代の男性。一味は百億円規模の大取引を仕掛けるが、予期せぬ事態が続いたり、主人公の過去が明らかになったりして、メンバーの間に少しずつひずみが生まれていく。

 サスペンスのような展開で楽しく読ませながら、日本の至る所で徹底される「本人確認」の形式主義に一石を投じる。実は、本人でも「自分が本人である」と証明することは、とても難しい。パスポートや運転免許証が一級の証明書としてなかば妄信され、逆手に取られる。「これだけで小説が成り立つテーマ」だととらえる。

 作中では、データ入りの偽造運転免許証が使われ、指紋も難なく偽装できる。一方、実際の事件で、偽の地主が生まれ年のえとを言い間違えても見破られなかったという。身体認証など技術は進化したが、自分の目や判断力より、他の“お墨付き”に頼ってしまう。「どこまでいってもいたちごっこで、限界を感じた。このテーマをもっと掘り下げたかった」と語る。

 自身にとっての挑戦でもあった本作の執筆は「新鮮だった」。続編にも意欲を持つ。一方で「自分は謎を仕込んで楽しませるような書き方はしなくていい」とも思った。「純文学でもエンターテインメント小説でも、あくまで『こんなもん書いてくれるなよ』というような、ぐじゃぐじゃな人間心理が交差するドラマを見せたい。そこが一番面白いので」

 集英社・一七六〇円。 (松崎晃子)

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