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【書評】

松竹と東宝 興行をビジネスにした男たち 中川右介(ゆうすけ)著

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◆商業演劇の歩みと重ねて

[評]大笹吉雄(演劇評論家)

 これまで書かれているようでいて、世になかったのが本書である。松竹と東宝、もちろんそれぞれの社史はあり、松竹を起こした白井松次郎と大谷竹次郎――二人は双子の兄弟で、松次郎が白井家の養子になったので姓が違う――の個別の自伝や評伝もある。東宝の生みの親たる小林一三(いちぞう)も同様である。しかし、これらを一括して論じた著作はなかった。着眼が素晴らしい。

 著者は「はじめに」の項でこう書いている。

 「四百年の歴史を持つ歌舞伎が、なぜ百二十年の歴史しかない松竹のものになっているのか。/日本最大の演劇・映画会社である東宝が、関西の鉄道会社・阪急と同一グループなのはなぜか」

 一言で言えば、これを歴史物語としてひもといたのが本書である。したがって叙述は年代記風になっている。こういう一節。「明治四十三年三月――松竹が新富座を買収し、東京の劇界に静かな波紋を起こしていた頃――ついに小林一三の箕面有馬電気軌道が開業した」

 この電車会社がやがて阪急電車になるが、その宝塚線の乗客増加策として小林が案出したのが宝塚を拠点とする宝塚少女歌劇、のちの宝塚歌劇で、この歌劇団の東京のホームグラウンドとして昭和九年に新築開場したのが、東京宝塚劇場である。そしてこれが東宝の母体の一つになる。しかし、宝塚歌劇はその傘下に入らず、誕生以来現在まで阪急が経営している。したがって小林は宝塚歌劇の、阪急の、東宝の創立者だということになり、阪急と東宝はグループを形成することになる。

 松竹の歴史も初代中村鴈治郎(がんじろう)と松竹兄弟の関係を中心に述べられていて、これはこれで分かりやすい。松竹と東宝の歴史は近代の商業演劇のそれとも重なるから、本書はそのガイドブックの役目も果たしている。

 しかし、もの足りない部分もある。たとえば、松竹が歌舞伎をビジネスとして営業していることの意味と実態、この点はもっと掘り下げてほしかった。ないものねだりだろうか。

(光文社新書・972円)

1960年生まれ。作家、編集者。著書『カラヤンとフルトヴェングラー』など。

◆もう1冊 

『宝塚歌劇 華麗なる100年』(朝日新聞出版)

 

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