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【書評】

地球星人 村田沙耶香(さやか)著

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◆想像を絶する常識の逸脱

[評]伊藤氏貴(文芸評論家)

 ストーリー展開が重要な意味を持つ作品なので、ここであらすじを披露することは控えなければならないが、舞台設定として、往年の名画『青い珊瑚礁(さんごしょう)』を思い浮かべていただくのがわかりやすいだろう。乗っていた船が沈没し、辿(たど)り着いた小島で、いとこ同士の少年と少女が二人だけで何年も生活することになる。

 一方『地球星人』でも、いとこ同士の少年と少女とが、周りから隔絶された自分たちだけの世界を作り上げようとする。それは彼らが「地球星人」の常識に馴染(なじ)めないためだが、無人島でもない以上、大人たちによって常識の世界へと連れ戻され、二人は引き裂かれる。

 少女は大人になり、やはり常識になじめない男を見つけ、形式的に結婚をするが、数十年ぶりに帰った田舎でいとこに再会すると、夫をも巻き込み、そこで三人だけで生活をはじめる。彼らはポハピピンポボピア星人を名乗り、地球の常識に囚(とら)われない自分たちだけの世界をいよいよ完成させようとする。

 日本人どころか「地球星人」の常識すら捨てようとの試みは果たして彼らをどこまで連れていくのか。読者は自分なりにそれを想像しながら先へ進み、その都度自分の想像力の狭さを痛感するだろう。まだまだ自分は「地球星人」の常識に囚われていた、と。

 孤島などで元の世界から隔絶された人間たちはどういう共同体を築くのか、という思考実験に基づく作品は少なくない。たとえば、ゴールディング『蠅(はえ)の王』であり、夢野久作『瓶詰の地獄』であり、桐野夏生『東京島』であるが、しかしこれらの作品も、村田が描く世界の極限状態に比べれば、まだまだ常識の範囲にとどまっていた。村田は問う、家族とは、結婚とは何なのか。性や食すらも、常識という制度にからめとられているのではないか。

 『青い珊瑚礁』の結末もハッピーエンドとは言い難かったが、ポハピピンポボピア星人から見た地球は果たして青かったのだろうか。本作の結末は、読者にも自らの常識を疑うことを迫ってくる。

(新潮社・1728円)

1979年生まれ。作家。著書『コンビニ人間』『殺人出産』など。

◆もう1冊

村田沙耶香著『消滅世界』(河出文庫)。生殖も家族も消えた未来を描く。

 

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