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【書評】

田中角栄 同心円でいこう 新川(しんかわ)敏光著

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◆排除しない 情の政治に学ぶ

[評]山岡淳一郎(ノンフィクション作家)

 相変わらず元首相・田中角栄の人気が高い。これはもはや一過性のブームではなく、国民的な願望のほとばしりではないか。本書では、田中を「戦後日本政治」の文脈に埋め込み、戦後民主主義を再考している。

 田中は雪深い越後の農村に生まれ、建設業界で力をつける。政界に進出し、日本列島改造論を著して総理の座を射止め、「金権問題」で失脚する。「ロッキード事件」で有罪判決を下され、政治生命を断たれた。そのプロセスの記述は、田中本人の『私の履歴書』や、秘書だった早坂茂三の『政治家 田中角栄』などの文献に負っている。

 後半の「目白の闇将軍」の振る舞いや子飼いの政治家の裏切りを分析するあたりに著者らしい視点が感じられる。

 田中派内に創政会を立ち上げた竹下登が、田中邸に挨拶(あいさつ)に赴く。すると田中は「いいんだ。同心円でいこう」と受け入れた。この局面に、著者は田中の人の良さという弱点を感受し、こう記す。「しかし、だからこそ田中は、敵味方を区別せず、派閥以外の、そして自民党以外の議員にも金を配り、広大な中間地帯を作ることができた。田中政治の本質は、友敵関係を徹底する排除の政治ではなく、全てを包み込もうとする包摂の政治にあったように思う」

 そして、田中ブームは「情の政治に対する人々の郷愁」に根ざすという。ただ、田中政治にも家父長主義の負の側面がある。それを抑制するには、「個人の自由と自立の可能性を花開かせる方向へと同心円の政治を発展させる必要がある」と著者は述べる。

 では、なぜ多くの人が「情の政治」に憧れるのか。評者は「暴政」への反動とみる。田中が首相だったら、恣意的(しいてき)に憲法解釈を変えて派兵の道を開いたり、格差を拡大する政策は採らなかっただろうと推測される。田中政治は追慕の対象に留(とど)まらず、選択肢へと浮上してきた。

 懐かしむばかりでなく、同心円的政治の何を生かし、社会にどう落とし込むかが問われる。政治を変えたい。そんな願望が高まっている。

(ミネルヴァ書房・2592円)

1956年生まれ。法政大教授。著書『福祉国家変革の理路』など。

◆もう1冊

辻井喬(たかし)著『茜色(あかねいろ)の空−哲人政治家・大平正芳(おおひらまさよし)の生涯』(文春文庫)

 

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