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【書評】

運命 文在寅(ムンジェイン)自伝 文在寅著

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◆盧武鉉政権の宿題と向き合う

[評]西野純也(慶応大教授、現代韓国研究センター長)

 昨年十月に翻訳、刊行された本書は、文在寅大統領の人となりを知るための必読書である。彼は「貧しさは私を消極的にし」、徴兵による軍経験が「私を入隊前よりはるかに前向きで楽観的な人間にした」、そして人権派弁護士としての仕事には心からやりがいを感じたと語る。リーダーの権限が大きい韓国大統領制では、大統領がどのような人物かが政権を知るためのカギとなる。その意味で本書は文政権を理解する大きな助けにもなる。

 どのような経緯を経て大統領に当選し、政権が発足したのかも政権の理解には欠かせない。朴槿恵(パククネ)大統領の弾劾、罷免による大統領選挙での勝利、キャンドル・デモとして表れた民意を無視できないという事実が文政権に重くのしかかっている。韓国語版の原書刊行が二〇一一年のため、本書は文政権の誕生を直接扱ってはいないが、巻末の解説は政権発足の経緯と意味を簡潔かつ明瞭に整理している。

 解説にあるように本書は一二年十二月の大統領選挙への出馬宣言としての性格を持つ。しかし興味深いことに、本書は盧武鉉(ノムヒョン)元大統領と文在寅の関係を軸に編まれている。「出会い」の章から始まり、盧武鉉政権の回顧となる「同行」の章が本書の大半を占める。それは文在寅自らが盧武鉉との出会いを「運命」とし、彼が残した宿題から逃れず、それを進んで受け入れ生きていくことにきわめて自覚的だからである。

 だが、盧武鉉政権を回顧する筆致には反省の念が色濃くにじむ。政権初期に労働界と衝突して改革のエネルギーが削(そ)がれてしまった、南北首脳会談をもっと早く開催し、合意を国会で批准し、会談定例化で北朝鮮と合意すべきであった、といった述懐を読めば、文在寅大統領が盧武鉉政権の経験からいかに多くの教訓を引き出しているかがわかる。

 本書は最後に、政権を再び担うために進歩陣営が力を結集する必要性を訴える。就任後、果たしてそれが本当に実現できているのか。韓国政治の今後を見通す上でも本書は多くの示唆に富んでいる。

(矢野百合子訳、岩波書店・2916円)

1953年生まれ。2017年、第19代韓国大統領に就任。

◆もう一冊

金大中著『金大中自伝』I・II(岩波書店)。波佐場清・康宗憲訳。

 

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