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【書評】

ジャポニスム 流行としての「日本」 宮崎克己(かつみ)著

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◆市民生活への広がり見極める

[評]中村隆夫(美術史家)

 大辞泉でジャポニスムを引いてみると、「西欧美術における日本美術の影響。十九世紀半ば以降、印象派の絵画やアールヌーボーの工芸などに顕著にみられる」とある。これが一般的な理解であろう。

 著者は、ジャポニスム理解に新しい視点を盛り込む。マネ、モネ、ゴッホはジャポニスムの頂点に位置するが、裾野はもっと広い。それは絵画や工芸に限定されるのではなく、生糸や生活を飾る装飾品、陶磁器、団扇(うちわ)にまで及ぶ。ジャポニスムをひとつの山と捉えるなら、裾野をどこまで延ばすことができるか。その山容を見極めること、それが著者の試みである。

 フランスの一般市民の目から見た「日本」がどのようなものであったかを検討し、ペリー来航の一八五三年前後ではなく、アヘン戦争(一八四〇〜四二年)の直前あたりがジャポニスムの始まりだとする。中国経由で、日本への関心が急速に高まっていくのだ。そして、その終焉(しゅうえん)を第二次世界大戦頃と見る。

 ジャポニスムの時間と対象の幅の拡大が著者の研究の新しさである。日本と西洋の貿易、政治、経済、西洋の庶民の生活など、さまざまなことに言及し、ジャポニスムは日本と西洋の「新しいタイプの文化交流史」を構成することになるだろうと著者は言う。

 団扇、扇子などが描かれたモネの《ラ・ジャポネーズ(日本女性)》が本の表紙を飾り、文中でもジャポニスムの頂点として扱われている。私は、絵画原理の根本に影響を及ぼさずに日本的モチーフだけを描いた作品はジャポネズリー(日本趣味)であって、ジャポニスムではないと理解していたが、著者は新たな定義をしている。

 「ジャポニスムとは、近代の西洋が見た『日本』のこと」であり、ジャポネズリーは「日本から輸入された、いかにも日本的な品々、主として美術工芸品」を指すと言う。文化交流史として考察するジャポニスム研究はダイナミックで魅力に富んでいるが、一方で、絵画の狭義におけるジャポニスム理解がぼやけてしまうのではないだろうか。

(講談社現代新書・994円)

1952年生まれ。昭和音楽大教授。著書『ルノワール−その芸術と青春』など。

◆もう一冊

平松礼二著『モネとジャポニスム』(PHP新書)

 

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