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【書評】

他力の哲学 赦(ゆる)し・ほどこし・往生(おうじょう) 守中高明著

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◆体験と現代思想で奥深く

[評]釈徹宗(僧侶、宗教学者)

 他力の仏道は、日本において独特の発達を遂げた。これほど称名念仏(しょうみょうねんぶつ)による浄土往生が特化して展開しているのは日本の仏教だけである。そして、その流れを生み出したのは法然(ほうねん)である。法然思想は従来の仏教の枠組みを再構築するものであった。さらに、法然の流れからは、親鸞(しんらん)や一遍(いっぺん)などの念仏者が輩出する。

 本書では、その法然・親鸞・一遍という三師を比較検討しながら、現代思想を補助線として、奥行きのある論考が繰り広げられている。

 他力の仏道を構成する主要素である「念仏」「信心」「往生」について詳述しながら、「罪と赦し」「贈与」などへと思索は深まっていく。さらにマイノリティの問題、死刑制度の問題にも敷衍(ふえん)する。取り扱う思想の範囲は広く、三師の先駆形態としての円仁(えんにん)・良源・源信から、ハイデガーやデリダやニーチェ、そして鈴木大拙(だいせつ)・吉本隆明など多様なものとなっている。

 本書を熟読すれば、深い知性には宗教性が宿ることを実感できるはずである。また、魅力的な表現が多い本でもある。「共和主義革命としての浄土宗」「親鸞が法然のうちに見出した可能性」など、切れ味鋭い言葉が目につく。

 特に第III部の「一遍の実践」、第IV2部の「現世において生/死を超える」はオリジナリティ高い章となっている。一遍の賦算(ふさん)(札を配りながら念仏を勧める)を贈与論で読み解き、往生に時間論を導入している。往生が、「すでに」と「いまだ」の間に宙吊(づ)りされるという知見は、時間論を通さねば出てこないものであろう。すでに「往生を願うすべてのものが救われねば仏とは成らない」との誓いを立てた阿弥陀仏。そして、いまだ「往生していないこの私自身」。ここは他力の仏道の根幹に関わる問題である。

 本書はぜひ「あとがき」にも注目していただきたい。本書が単に日本浄土仏教を現代思想で読み解いたというものではなく、著者の宗教体験によって成立したことがよくわかる。哲学的思索と臨床現場との呼応によって生み出されたのである。

(河出書房新社・2808円)

僧侶、詩人、早稲田大教授。著書『ジャック・デリダと精神分析』など。

◆もう1冊 

釈徹宗著『法然親鸞一遍』(新潮新書)。日本浄土仏教の3師の思想に迫る。

 

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