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【書評】

進化の法則は北極のサメが知っていた 渡辺佑基(ゆうき)著

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◆生物の神秘のメカニズムを探る

[評]石浦章一(同志社大特別客員教授)

 内容とはちょっと違う書名には違和感があるが、とにかく意欲的な出来栄えである。世界のいろいろなところに出かけて行って、野生動物にカメラや計測機器を付け行動を探る「バイオロギング」という手法で、多様な生物が共通にもっているメカニズムを明らかにしようという壮大な計画である。著者のキーワードは「体温」。第一章のニシオンデンザメを見てみよう。

 このサメは北大西洋の高緯度海域に生息する体長が最大で六メートルにもなる巨大種で、水温ゼロ度前後の海に暮らしている。この冷たい海の中で、そもそも動けるのか、何を食べ、どう暮らしているのか、という謎の解明である。結果は本文中にあるので詳細は省くが、体温を高く保つことのできる恒温動物の方が動きも速くてエサも捕りやすいが、その分、体温維持のためにエネルギー摂取量も多くなくてはいけない。

 外気温に影響を受けやすい変温動物にはハンディがありそうだが、恒温動物と変温動物の両方が繁栄している現在の生物多様性はどこから来るのか、というのが著者のもつ大きな疑問である。変温動物のニシオンデンザメは、動きも緩慢なだけでなく、なんと成長も遅くて四百歳と推定される個体もいるとのことで、変温動物の寿命の驚異に触れることができ、読書冥利(みょうり)に尽きる。

 本書は、学問はもとより、機器を生物に取り付ける生態学者の奮闘の方も魅力的である。学問は楽しく行わなければならない、という典型である。冒険はこの後、アデリーペンギン、ホホジロザメ、イタチザメ、バイカルアザラシと世界を股にかけて続く。

 NHKの動物番組「ダーウィンが来た!」の放送時にはテレビにかじりつく私でも、このような体温と寿命の関係は驚きで、生命の神秘を覗(のぞ)き見るようであった。ニューメキシコ大学のジェームズ・ブラウン博士が提唱した「動物の代謝量は体重の四分の三乗に比例する」というクライバーの法則に対する根拠には驚いた。アイ・フィール・グッド!だ。

(河出新書・994円)

1978年、岐阜県生まれ。国立極地研究所准教授。けん玉1級。

◆もう1冊 

渡辺佑基著『ペンギンが教えてくれた物理のはなし』(河出ブックス)

 

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