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【書評】

中国銀河鉄道の旅 沢野ひとし著

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◆変わらぬ庶民の生活風景描く

[評]麻生晴一郎(ジャーナリスト)

 著名なイラストレーターである著者が六十代後半から通い始めた中国の旅行記。中国の旅は高齢者でなくともハードである。著者も四つ星ホテルのいいかげんな接待ぶりに怒ったり、猛スピードで走る二輪車の後部座席に乗ってハラハラしたりするなど、けっして快適な旅とは言えない。

 それでも大勢の高齢者が太極拳や将棋に興じる公園は活気があるし、田舎に行けば、日本ではとうの昔に消えた三輪自動車が活躍している。大都市でも古い路地では昔ながらの暮らしが見られる。つまり、新しいものに加え、古くから存在するものも生き生きとしている姿に著者は感嘆する。著者を中国の旅に駆り立てるのは、片言の中国語を駆使して彼らと接する中で、日本では得難い居場所を得た実感を抱くからのようである。

 さらには通い続ける中で理解も深まってくる。たとえばギョーザを食べる際に主食のご飯が出ないことが当初は物足りなかったが、ギョーザは皮にこそ主食ならではの旨味(うまみ)があることを知っていくように。かくして旅を重ねていく著者が、飛行機で知り合った中国人を旅の友にして田舎の生活を体験したり、漢詩で名高い場所を訪れて歴史の重みを実感したりするなど、さまざまなスタイルの旅を通じ、理解を深めてますますのめり込んでいく過程が、叙情的な挿絵とともに描かれている。

 本書で書かれた中国の大部分は、お節介(せっかい)なまでに世話をしたがる庶民の人情や、裏門から無料で入れる田舎の博物館のおおらかさなど、中国旅行がブームだった一昔前にも見られた庶民の生活風景だ。当時日本でよく見かけた中国の生活風景を描く旅行記が、最近の日本では以前ほど見られないことをつくづくと感じさせられた。この変化が意味するものは何なのか?

 高層ビル乱立など中国が変わったと言われて久しいが、本書を読むと、庶民の生活風景は実はあまり変わっていないことがわかる。著者が日本社会の元気のなさを嘆くように、変わったのはむしろこちらの社会なのではないかという気にもさせられた。

(本の雑誌社・1944円)

名古屋市生まれ。イラストレーター。著書『人生のことはすべて山に学んだ』など。

◆もう1冊 

沢野ひとし著『北京食堂の夕暮れ』(本の雑誌社)。スケッチ&エッセー集。

 

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