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【書評】

貿易戦争の政治経済学 資本主義を再構築する ダニ・ロドリック著

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◆健全なグローバル化への道筋は

[評]菅原琢(政治学者)

 会員制交流サイト(SNS)をのぞくと、経済学の理論や著名学者の名前を“鈍器”のように扱う人々を容易に発見できる。元官僚など一定の識見が期待される人々の中にも、他者をたたくために学問にすがる欲求に抗(あらが)えない方々がいるのは残念である。

 グローバル化の行き過ぎに警鐘を鳴らしてきた著者の手による本書は、書名の印象とは異なり国際貿易の研究書でも貿易協定交渉の内幕話でもない。度を越してグローバル化した世界経済が抱える問題について自他の研究成果を元に説明し、解決の方策を探るものである。格差拡大などの不都合を抑えながらグローバル化と各国の経済成長を両立させるアイデアを提供し、反グローバル化のポピュリズムに抗するのが狙いである。

 本書は、度を越したグローバル化の推進に経済学の知見が都合よく利用されてきたこと、これを経済学者が主導してきたことに徹底した批判の目を向ける。たとえば、経済学者たちが特定のモデルに固執していたことが世界金融危機などの背景として指摘される。本来、経済学は状況に応じて多様なモデルを提供するもののはずなのにだ。

 健全なグローバル化は国民国家の尊重が基本となる。多様な経済問題の解決はグローバル・ガバナンスなるものに期待できず、各国が国内で対処するしかない。独自の制度を発達させてきた各国を環太平洋連携協定(TPP)のように統一ルールで縛るのは適切でなく、「大企業による公共政策の私物化」に思えると断じる。

 こうしたシャープな議論の一方、本書の提言は絵空事の域を出ない。グローバル経済のガバナンスに関して著者が提案した原則に、各国政府が国内政治の文脈を超えて合意する未来はまだ想像しにくい。現状を反転させるための道筋は、アイデアの提供だけで開けるだろうか?

 それでも本書は、経済政策論議に一定の視座や判断基準を与える点で有意義である。本書が基礎に置く学術的態度と“鈍器”を素振りする列とは全く相いれないものなのだ。

(岩本正明訳、白水社・2592円)

ハーバード大教授。著書『グローバリゼーション・パラドクス』など。

◆もう1冊 

ポール・メイソン著『ポストキャピタリズム』(東洋経済新報社)

 

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