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【書評】

すべては救済のために デニ・ムクウェゲ自伝 デニ・ムクウェゲ、ベッティル・オーケルンド著

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◆性暴力 命懸け闘う医師

[評]秋山千佳(ジャーナリスト)

 性暴力が、武装勢力などが地域住民を支配するための「武器」として蔓延(まんえん)するアフリカ・コンゴ民主共和国。本書はかの国の産婦人科医であり、性暴力の実態を命がけで告発し続け、昨年のノーベル平和賞を受賞したデニ・ムクウェゲ氏の自伝だ。

 一九九九年からの十五年間に、ムクウェゲ氏の病院で治療を受けた性暴力被害者の数はおよそ四万二千人。幼子から年配者まで、何の罪もなく無防備な女性がそれだけ襲われてきたのだ。共通項は、レイプ後に性器に凄惨(せいさん)な傷をつけられること。心身を壊された被害女性は、穢(けが)れた者として家や社会から追い出される(病院にたどり着けるのは「運に恵まれ」た被害者だけだ)。家事全般を担う女性が排除されることで、家庭の崩壊やコミュニティの弱体化につながり、武装勢力らがその地域を支配しやすくなる。

 ムクウェゲ氏は被害女性を受け入れ、治療するばかりでなく、彼女たちの代弁者として為政者に、そして国際社会に救済を訴えてきた。しかしそのことで「売国奴」と批判され、命を狙われるようになる。自身の半生を「絶体絶命のピンチを奇跡的に逃れたエピソードに彩られている」と言うとおりの回想が、本書の冒頭から続く。彼の使命感の源も紐解(ひもと)かれていく。

 日本からは遠い世界の話に思えるかもしれない。だが、コンゴに世界の埋蔵量の八割がある鉱石コルタンをめぐり多国籍企業が争奪戦を繰り広げ、闇取引が横行し始めた時期と、性暴力が広まった時期とが重なるとムクウェゲ氏は指摘する。武装勢力らはコルタンを採掘できる地域を性暴力で制圧する。コルタンからは金属タンタルが抽出され、パソコンや携帯電話などに使われる。それらを手にする私たちも無関係ではないのだ。

 ムクウェゲ氏のスピーチの一節を引いておきたい。「一人ひとりがそれぞれの場所でこの問題に影響をおよぼしているのです。行動を通じて、あるいは無関心を通じて」

 人は限りなく愚かにも、尊くも生きることができる存在だと彼の歩みが示している。

(加藤かおり訳、あすなろ書房・1728円)

<ムクウェゲ> 1955年生まれの産婦人科医。

<オーケルンド> スウェーデン出身のジャーナリスト。

◆もう1冊 

ナディア・ムラド著『THE LAST GIRL−イスラム国に囚(とら)われ、闘い続ける女性の物語−』(東洋館出版社)

 

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