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【書評】

藩とは何か 藤田達生(たつお)著

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◆下剋上を防ぐ天下人の知恵

[評]伊東潤(作家)

 われわれが普段から当たり前のように使っている「藩」という用語だが、実は江戸時代に使われた例は極めて少なく、当時の人々は自分たちが所属する集団を「国」や「家中(かちゅう)」と呼んでいた。本書によると「藩」という用語は、明治四(一八七一)年の廃藩置県の時に普及したという。では「藩」とは、また「藩」による統治を基本とした幕藩体制とは何だったのだろう。

 群雄割拠(ぐんゆうかっきょ)の戦国時代から織田・豊臣政権時代を経て、徳川家康によって天下が統一される過程で、天下人たちは下剋上(げこくじょう)を克服するために試行錯誤を重ねていた。様々な方法が試されたが、その中で最も効果的だったのが国替(くにがえ)だ。すなわち戦国時代、大名や国人(こくじん)は実力によって領国を切り取り、そこに根を張って領民と一体化していた。そこで天下人たちは、そうした地生えの大名や国人を本領から切り離し、縁もゆかりもない地に移封することで、根無し草のようにしていった。

 本書では「藩誕生の大前提は、国替だった」と言い切り、幕藩体制に取り込まれた戦国大名で、信長・秀吉・家康の治世期に国替を経験していない大名は少ないとしている。すなわち大名たちが領国に根を下ろしていることが封建制の弱みだと見抜いた天下人たちは、大名は将軍から領地・領民・城郭を預かっているという意識を持たせることで、少しでも不適格だとみなされれば、改易(かいえき)や減封(げんぽう)という処分が下されて文句を言えない雰囲気を作っていった。つまり領地・領民・城郭は預かり物だという預治(よち)思想によって既得権を打ち消し、法の支配を徹底させることで、天下泰平を生み出そうとしたのだ。

 本書は慶長期から寛永期にかけての「藩」の誕生過程を精査することで、地域社会の観点から江戸時代の幕藩体制を概観しようという斬新な試みである。後半では、江戸幕府の諸大名統制から近世城郭や城下町の建設にまで言及しているが、そのどれもが実例を豊富に取り上げているので、どんどん読み進められる。本書は「藩」というものを見つめ直す嚆矢(こうし)となるだろう。

(中公新書・929円)

1958年生まれ。三重大教授。著書『本能寺の変』『天下統一』など。

◆もう1冊 

中野等著『太閤(たいこう)検地−秀吉が目指した国のかたち』(中公新書)

 

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