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【書評】

【負の世界記憶遺産】文革受難死者850人の記録 王友琴、小林一美、佐々木惠子、劉燕子、麻生晴一郎 共編共著

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◆1人1人の人生 生々しく

[評]迫田(さこだ)勝敏(本紙元中国特派員)

 読み終えて強い疲労感が残った。五百ページを超える大著のためでもあるが、それよりも心を打ちのめされたのは受難者の記録だ。迫害から虐殺までの悲惨な人生を一人一人克明に記す。「人間は…『善悪二元・敵味方二元論』の下で、いかなる残酷な所業にも及ぶ動物であること」を痛感させる。

 文化大革命(文革)は一九六六年から七六年まで続いた。毛沢東(もうたくとう)主導の革命運動と称賛の声もあったが、実態は権力闘争。毛沢東に煽(あお)られた高校生中心の紅衛兵が受難者を後ろ手に縛り、三角帽子をかぶせて迫害。一千万人以上を死に至らしめた。

 「迫害死一千万人」で事件の大きさは分かるが、単なる数字。その一人一人にそれぞれの人生があったことにまでなかなか思いがいかない。本書はその受難者の記録と論文集であるが、過去に出版の文革関係書で、これほど多くの受難者を記録したものはない。モノクロ写真がカラー写真に変わったように文革の残酷さが生々しく浮き上がる。

 この残酷な「政治運動」は毛沢東時代には五十五あり、文革同様、多数の受難者が記録されている。ここまで死者が増えたのは、粛清すべき人数を人口比率で初めから設定していたからで、「農村では人口の一〇〇〇分の一を殺し、都市では一〇〇〇分の〇・五を殺すのがよい」と制定した五〇年の運動もある。

 中国共産党は八一年の歴史決議で「文革は指導者が誤って発動し…重大災難をもたらした内乱」とし、現代中国では毛沢東の生涯は「七分の功、三分の過ち」とするが、一千万人を殺して、なぜ三分の過ちでしかないのか。

 文革が残したものという論文で、政治運動が起きると中国の人たちは「迫害されるのを恐れてじっと沈黙するか、自らも迫害する側に回るという処世術を身につけ…その政治運動の力学は今も健在だ」と指摘する。本当のことが言えなくなった社会だ。中国での取材経験がある評者もまさに同感。建国七十年を迎えた中国だが、毛沢東の本当の過ちは今も正されていない。

(土屋紀義、谷川雄一郎 翻訳協力、集広舎・6545円)

<王> 1952年生まれ。中国で博士号を取得後、渡米。文革の調査研究を続ける。

◆もう1冊

王友琴ほか共編共著『中国文化大革命「受難者伝」と「文革大年表」』(集広舎)

 

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