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【書評】

記者と国家 西山太吉の遺言 西山太吉(たきち)著

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◆それでも、知る権利のために

[評]御厨(みくりや)貴(たかし)(政治学者)

 昭和の男の物語である。栄光と挫折を生き抜いた人生そのものが、昭和というセピア色の時代をよく表している。自らの人生を淡々と語ったいわゆる回顧録ではない。国家というものに翻弄(ほんろう)され続けた人生の節目節目での出会いのシーンをクローズアップし、はっきりと今の時点での感慨を述べていく。過去の出会いの一つ一つが、時に悲しみに彩られ、時に怒りの相貌をもって立ち現れる。

 まず、著者と対峙(たいじ)するのは今もって現役の渡邉恒雄(つねお)(読売新聞主筆)だ。渡邉を描く筆は、昔からのスクープ仲間だった渡邉の今を前にしてためらいを見せる。メディアの側から国家と衝突した著者からすれば、国家対メディアの構図を変えてしまったのは、他ならぬ渡邉その人だったからだ。「渡邉という新聞界の超大物の秘密保護法制への積極参加は、権力対新聞の本来の基本構図を、根底から塗り替えてしまったのである」

 次いで著者は、自らがかつて期待もし、積極的にかかわった自民党宏池会をのびのびと描く。大平正芳と田中角栄の絆に注目し、池田勇人と佐藤栄作との対立構図を明らかにする。そして小泉純一郎台頭後の宏池会の停滞ぶりを嘆くのだ。著者は宏池会政治のあり方を「未来へ」と「過去へ」の二つの要素を無視せず、その間の「均衡」を発見して実践することにあるという。だから徹底した「話し合い」の政治を貫いた。今は姿形もない。

 かくて「渡邉恒雄」と「宏池会」との昭和から平成への変貌ぶりを描きつつ、著者が体験した「国家」と「記者」が対峙する「密約問題」をあらためて問うている。昨今の公文書関連の問題にも触れながら、自らの闘いを自らの中に閉じ込めるのではなく、普遍的な意味合いのある文脈に広げていく。

 記者は政治家・官僚のうち懐に飛び込んで情報をとる間に情がわいてくるものだが、それでも国民の知る権利を優先するべきだと断じる著者の言葉は、昭和の男としてのいちずな思いを恥じらいながら語って、読む者の胸を打つ。

(岩波書店 ・ 1760円)

1931年生まれ。毎日新聞記者時代に沖縄返還密約取材で国家公務員法違反容疑で逮捕され、有罪が確定。

◆もう1冊 

沖縄密約情報公開訴訟原告団編『沖縄密約をあばく』(日本評論社)

 

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