東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > Chunichi/Tokyo Bookweb > 書評 > 記事一覧 > 記事

ここから本文

【書評】

反逆者たちのアメリカ文化史 未来への思考 堀真理子著

写真

◆自由求め、対峙する表現

[評]渡辺靖(慶応義塾大教授)

 ヨーロッパとは異なり、米国は保守(貴族)主義や社会主義を否定し、市民が社会を統治する自由主義を自らのアイデンティティの拠(よ)り所にしてきた。巨大な政府権力やエリート支配を嫌う反権威主義の伝統は、宗教から商業、政治に至るまで、米社会全体の通奏低音となっている。

 本書は文化芸術もまた例外ではないことを、演劇や小説、映画、音楽などを通して克明に描き出す。扱う時代は十九世紀中葉以降、つまり南北戦争を経て、近代国家として飛躍的に発展した約百五十年間。

 近代的な自由社会であるはずの米国で、女性や黒人、メキシコ人、ユダヤ人、同性愛者など多くの市民が差別や迫害の対象になってきた。この矛盾に対して彼(女)らは文化芸術を通していかに対峙(たいじ)してきたのか。

 本書には『アンクル・トムの小屋』から『ウェストサイド・ストーリー』、ビリー・ホリデイからボブ・ディランまで著名な作品や作家、歌手らが多く紹介されている。その一方、女性として初めて野球殿堂入りしたニグロリーグの球団経営者エファ・マンリーなど、日本では馴染(なじ)みの薄い人物もいて、改めてアメリカ文化の奥行きを感じる。

 どの章からも読み進めることができ、どの章も最初の数パラグラフだけで一気に引き込まれる。

 抗(あらが)いの歴史を描いた本ではあるが、決して反米の書ではない。むしろ、絶えず対抗言説を紡ぎ、表現し続けることは、極めて米国的な営為であることを再認識する。暗澹(あんたん)たる現実群の中にも一筋の希望も見えてくる気さえするから不思議だ。

 本書の終盤では、同時代の移民・難民問題や核問題に対しても考察を加えている。一見、文化芸術とは無縁に思えるが、そうではない。むしろ、映画や小説などと絡めながら、これらの問題の深淵(しんえん)に迫ろうとする人文社会的な感性や知の有用性を痛感する。

 文化史を通して「未来への思考」への手がかりを得ようとする貴重な試みの書として歓迎したい。

(春風社 ・ 2970円)

青山学院大教授。著書『改訂を重ねる「ゴドーを待ちながら」』など。

◆もう1冊 

中山悟視編著『ヒッピー世代の先覚者たち−対抗文化とアメリカの伝統』(小鳥遊(たかなし)書房)

 

この記事を印刷する

PR情報