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【書評】

さんかく 千早茜(ちはや・あかね)著

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◆食でつながる不思議な関係

[評]千野帽子(エッセイスト)

 <私>高村夕香(こうむらゆうか)は京都の美大を卒業後、カフェの調理スタッフ、東京のデザイン事務所勤務を経て、京都へ戻ってきた。三十代後半のいま、古い町家でフリーランスのデザイナーとして不安定ながら多忙な独居生活を送っている。

 大阪の会社で営業職として働いている<俺>伊東正和は大学生時代、六つ年上の夕香が働いていたカフェでホールスタッフとしてバイトをしていた。いまは営業先の京都で夕香と再会し、自分たちふたりの「食の趣味」がぴったりだということを発見する。

 国立大学大学院の農学研究科で学ぶ<あたし>中野華(はな)は、動物園などから予告なく持ちこまれる動物の死体の解剖を日常としている。正和の三つ年下の恋人だ。

 本作はこのアート系アラフォー女、草食っぽいアラサー男、理系かつガテン系のマイペース女の三人がこの順番で語り手役を務め、六巡する。

 夕香は自分の食べるものを、まめに手際よく作ってしまう。正和は夕香との再会を経て、自分のなかでの食の趣味が明確になっていく。ふたりが京町家でのルームシェアを決めた理由は、その利害の一致だった。正和はルームシェアのことを、華に告げることができない。

 京都の四季を背景に、家庭での調理から外食、まかない、購入品まで、主食からスイーツまで、和洋中エスニックと多様な「食」がつぎからつぎへと登場する。視覚、嗅覚、調理音や咀嚼(そしゃく)の歯応えを再現する作者の記述は鮮やかでシズル感がある。その技巧(と可愛(かわい)げな装幀(そうてい))に目を奪われ、ついつい等身大で抒情(じょじょう)的な三角関係ドラマだと思ってしまいそうだ。

 しかし作者は、三人の登場人物それぞれの弱さ、つまり小ずるさや自己欺瞞(ぎまん)、自己正当化といったいやらしく愚かな側面をも、容赦なく読者に突きつける。本作の力は、読者の共感を誘うには少々意地悪なこの視線にある。

 とはいえ、最後の急展開には大きな浄化作用がある。人間はいつでもやり直すしかないし、やり直せるのだと、あらためて実感させられる。

(祥伝社・1650円)

1979年生まれ。作家。著書『あとかた』『神様の暇つぶし』など。

◆もう1冊 

千早茜著『クローゼット』(新潮社)。服を通し生き方を考えさせる物語。

 

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