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【書評】

蝦夷(えぞ)太平記 十三(とさ)の海鳴り 安部龍太郎著

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◆幕府翻弄した気高き男たち

[評]池上冬樹(文芸評論家)

 気高く凛々(りり)しい男たちの物語である。劇的な展開で読者をぐいぐい引っぱっていく。

 舞台は、鎌倉時代末期の奥州、蝦夷。主人公は津軽太守安藤又太郎季長(すえなが)の三男、安藤新九郎季兼(すえかね)、十九歳。身の丈六尺三寸(約百九十センチ)の巨漢で大太刀を振るう。

 新九郎は、父から出羽(でわ)の反乱を鎮圧せよと命じられる。季長の次男の季治(すえはる)が出羽の者たちに殺された、蝦夷管領(かんれい)としての季長の政策に不満をもつ者たちが、渡党(わたりとう)(アイヌ)と組んで反乱を起こしたという。だが、渡党と親しくしている新九郎には信じられなかった。調べると、反乱の首謀者が一門の有力者、安藤五郎季久(すえひさ)であることがわかる。

 こうして新九郎は、天皇方と手を組み討幕をもくろむ季長と、幕府方を標榜(ひょうぼう)する季久の間で揺れることになるのだが、興味深いのは少しずつ見えてくる時代背景だろう。作者が後書きに書いていることだが、鎌倉末期の安藤氏の乱が北条得宗家(ほうじょうとくそうけ)を窮地に追い込み、幕府の崩壊につながったのは「歴史の定説だが、なぜ奥州北端の津軽にいた安藤氏にそれほど大きな力があったのか」謎であるという。それを追究したのが本書である。

 つまり、北条得宗家が全国の海運を支配することで莫大(ばくだい)な利益をあげていて、要となるのが日本海と太平洋の海運をつなぐ内海(うちうみ)で、この地域を支配する安藤家だったこと。さらに得宗家は元(げん)との交易を盛んに行い、上納金を独占するまでに至ったことが反乱の遠因になったとしている。

 その視点が新鮮だが、物語として興趣に富むのは、羆(ひぐま)との死闘、超能力を駆使した戦術と闘争、二人の女性との絡み、アイヌたちとの熱き共闘など娯楽要素が充分(じゅうぶん)であること、また新九郎の母親の出自を隠して、偶然が必然へと変わっていく流れも力強い。

 作者はすでに佐々木道誉(どうよ)と楠木正成(くすのきまさしげ)を描いた『婆娑羅(ばさら)太平記 道誉と正成』、新田義貞(にったよしさだ)の劇的な生涯を活写した『士道太平記 義貞の旗』を出していて、本書は太平記シリーズの三作目となる。新たな視点から歴史を読み解く安部版「太平記」に注目である。

(集英社・2200円)

1955年生まれ。作家。著書『天馬、翔(か)ける』『等伯(とうはく)』『宗麟(そうりん)の海』など。

◆もう1冊 

安部龍太郎著『冬を待つ城』(新潮文庫)。秀吉の「奥州仕置き」にあらがう一族の闘いを描く。

 

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