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【書評】

宇宙から帰ってきた日本人 日本人宇宙飛行士全12人の証言 稲泉連(いないずみ・れん)著

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◆それぞれに得た世界観

[評]中野不二男(ノンフィクション作家)

 スペースシャトル・チャレンジャー号の爆発事故という不測の事態により、日本人初の宇宙飛行士と“なってしまった”秋山豊寛(とよひろ)の、ソユーズからの第一声は「これ、本番ですか?」だった。一九九〇年のことである。TBSの記者だった秋山は、「特派員」としての仕事に忙殺された。

 一方、事故がなければ日本人初となるはずだった毛利衛(まもる)は、一九九二年にスペースシャトルに搭乗。アポロ計画の飛行士たちが新たな価値観に傾倒したように、毛利も独自の「世界観」を手にする。

 二〇〇三年一月、コロンビア号が空中分解。六年間訓練を積んだ野口聡一(そういち)の初飛行はキャンセルされ、彼は森林地帯での落下部品捜索隊に加わる。真っ黒になった耐熱タイルの破片を見る。「家族に向けて遺書も書いた」という。

 秋山以来の日本人による宇宙飛行の十三年間は、あまりにも強烈な印象を残した。シャトルの運用は再開され、再び日本人は次々と宇宙へ出て行く。やがてソユーズの時代に入りながら、新しい世代の飛行士も生まれている。

 かつて宇宙は“未知の領域”だった。しかし今や、地球を「一周するのに九〇分もかかるんだな」(大西卓哉)である。家族ともテレビ電話で話せるし、eメールはしょっちゅう届く。そして、「何かあればソユーズに乗って帰ることができる」という安心感。多くの飛行士が宇宙へ行くことを「出張」といい、実際「出張届」を出している。

 私が航空自衛隊のF15に同乗して強烈なG(重力加速度)を体験したのは、基地のテレビで土井隆雄の船外活動の中継を見た翌日だった。“ゼロG環境”での彼の気持ちを、本書ではじめて知った。

 宇宙飛行士と身近に会う機会があっても、こういう話はあまりしないだけに、興味深いエピソード満載の一冊である。時系列にこだわらず、十二人の日本人宇宙飛行士の考え方や個性を織り交ぜた構成も読みやすい。あまり情感を出さない乾いた文章は、十二人のヒストリーと個性を追うことにより、時代と社会の変化を描き出した。

(文芸春秋・1815円)

1979年生まれ。ノンフィクション作家。著書『復興の書店』など。

◆もう1冊 

立花隆著『宇宙からの帰還』(中公文庫)。飛行士たちの宇宙体験を聞く。

 

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