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【書評】

21Lessons(トゥエンティワン・レッスンズ) ユヴァル・ノア・ハラリ著

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◆比喩巧みに現代社会を分析

[評]古市憲寿(ふるいち・のりとし)(社会学者、作家)

 『サピエンス全史』で有名なハラリの最新作。今度のテーマは現代社会だ。人類史を壮大なスケールで描いてきた過去作の「応用編」とでも言うべき内容である。

 無神論者でもある著者の視線は極めて冷徹。テロで命を落とす人は、交通事故や大気汚染で亡くなる人よりもはるかに少ない、宗教は「永遠」を説くが、長くて三千年の歴史しか持たないユダヤ民族に「永遠と言う資格はとうていない」など、刺激的な表現が並ぶ。「もし今、エジプトがイナゴの大発生に見舞われたら、エジプト人はアッラーに救いを求めるだろうが」というのも面白かった。

 このような調子で、「神」「ナショナリズム」「移民」といったテーマを一刀両断していくのだ。しかし分析は明晰(めいせき)であるものの、安易な結論は提示しない。その意味で「すぐに使える本」ではない。

 本書の本領は比喩の上手(うま)さである。たとえば世界の国々がかつてないほど同質化していることを説明するために、オリンピックを持ち出す。千年前にオリンピックの開催は可能だったのか、という問いを立てるのだ。

 当時、中国の宋には自分たちと同等の立場だと認める国がなかった。数十年で消滅してしまう国も多かった。もちろん世界中でプレイされているスポーツなんてない。それに比べると、オリンピックが開催できるという時点で、現代の我々はいかに多くのことを共有しているか。

 このように全てを疑う著者は何をよりどころにしているのか。答えは最終章で明かされるのだが、何と「瞑想(めいそう)」。約二十年前に講座を受けて以来、毎日二時間の瞑想を欠かしたことがないという。さらに毎年、一カ月か二カ月は瞑想修行に出掛けるらしい。

 著者にとって瞑想とは自己を徹底的に観察する方法。そこで養われた集中力で大著を書いてきた。自己啓発本なら読者に瞑想を勧めることになるのだろうが、毎日二時間の瞑想なんて凡人には無理。最後まで安易な「答え」を拒絶する本である。それが知性の証(あかし)なのかも。

(柴田裕之訳、河出書房新社・2640円)

1976年、イスラエル生まれ。歴史学者、哲学者。著書『サピエンス全史』ほか。

◆もう1冊 

ユヴァル・ノア・ハラリ著『サピエンス全史−文明の構造と人類の幸福』(河出書房新社)。柴田裕之訳。世界的ベストセラー。

 

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