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【書評】

南仏プロヴァンスの25年 あのころと今 ピーター・メイル著

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◆人間的な暮らし愛し続け

[評]玉村豊男(エッセイスト、画家、ワイナリーオーナー)

 二〇一八年一月十八日、英国人作家ピーター・メイル氏がフランス南部の自宅そばの病院で死去。七十八歳。死因不明。

 この訃報に接したとき、私は意外な驚きと、ある種の安堵(あんど)を覚えた。

 ピーター・メイルといえば今から三十年ほど前のベストセラー『南仏プロヴァンスの12か月』の著者だが、自身が巻き起こした世界的なプロヴァンス・ブームで急増した観光客や訪問客の来襲に耐えかねて、英国に舞い戻ったらしい、という噂(うわさ)を聞いたことがあるからだ。

 英国や北欧とはまったく違う、南フランスの抜けるような晴天と溢(あふ)れる陽光。フランス人の飽くなき食への執念と、そこから生まれる新鮮な食材とおいしい料理。土とともに生きる農民の賢さと逞(たくま)しさ、職人たちの人生の楽しみかた……。人生のなかばに思い立って異郷での生活を選んだメイル夫妻が、戸惑いながらもしだいにその人間的な暮らしかたに魅せられていくようすを機知に富む筆致で綴(つづ)ったエッセイ『南仏プロヴァンスの12か月』。

 本書はこの物語をめぐる、こぼれ話、落ち穂拾い、後日譚(たん)、といった趣の小編を集めたもので、彼らがそもそも南仏に移り住もうと思った動機や家探しの顛末(てんまつ)から、移住以来四半世紀を経たプロヴァンスがいま迎えているネットやスマホの時代の現実までが、相変わらずの達者な筆で描かれている。

 楽園に住む著者を頼って英国からやってくる無遠慮な友人や、休暇になると大挙して訪れる観光客や別荘族の振る舞いには皮肉を込めた歎息(たんそく)を漏らしつつも、著者のプロヴァンスへの愛は決して揺らぐことがなかったのだ。

 彼があくまでもその愛を貫いてこの土地の暮らしに溶け込み、最後は古くからの村の住民と同じ目で風景を見ていることを知って、私は心からうれしくなった。

 本書の底本は二〇一八年に刊行された、著者の遺作である。時期から見て、彼が死ぬ前に完成した本を手にしたかどうかは定かでない。

(池 央耿(ひろあき)訳、河出書房新社・1870円)

 1939〜2018年。英国人作家。ニューヨークの広告会社に勤務後、南仏へ移住。

◆もう1冊 

 ピーター・メイル著『南仏プロヴァンスの12か月』(河出文庫)。池央耿訳。

 

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