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【書評】

私たちが、地球に住めなくなる前に マーティン・リース著

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◆倫理に導かれた技術を

[評]近藤雄生(ゆうき)(ライター)

 地球が経てきた四十五億年以上の歴史の中で、今世紀は特別だと著者は本書の冒頭で明言する。「人類というひとつの生物種が、この惑星の未来を掌中にできるほど権限と支配力を持った初めての世紀」だからだ。

 しかしその結果、私たちは現在、無数の問題に直面している。人口増加、気候変動、我々をどこに導くかわからない新技術。そして格差、貧困、政治……。それらの難題を私たちはどう乗り越え、そして未来はどうなるのか。その重大なテーマに、世界的な天文学者である著者が正面から向き合ったのが本書である。

 著者は各問題の本質とともに私たちが採れる方策を具体的に提示していく。その中で彼が貫くのは、技術の発展を肯定的に評価する「テクノロジー楽観論者」としての姿勢である。決してブレーキをかけることなく「適切なテクノロジーをいっそう迅速に配備する」ことが、私たちが選ぶべき道だとする。

 ただ同時にこうくぎを刺す。テクノロジーは「社会科学と倫理に導かれたものでなくてはなら」ず、私たちは地球規模かつ長期的な視点に立ち、「責任あるイノベーション」を起こし続けていく必要があるのだと。

 著者の考えには、科学に実直に向き合ってきたことを感じさせる公正さと深い知恵、そして、人間の力を信じようとする強い思いが滲(にじ)み出る。未来は私たちの意思次第で変わりうる。それゆえに、著者のその真摯(しんし)な意思を知ることは、私たちの誰もに少なからぬ意味があると思った。

 ちなみに、著者が提示する、さらに先の未来の可能性が衝撃的だ。AI(人工知能)やロボットの発展によって今後、無機的な知能が人間に取ってかわって何十億年も存続していくことになるのかもしれない。とすれば、地球上で人類が支配的な地位にいるここ数千年など、その前段階のほんの一瞬の出来事にすぎないかもしれないのだ。

 説得力のある予測に感じた。と同時に、現在の予測などほとんど無意味なほど未来は未知なのだとも思えてくる。

(塩原通緒(みちお)訳、作品社・2420円)

1942年生まれ。英国の宇宙物理学者、天文学者。著書『宇宙の素顔』など。

◆もう1冊

スティーヴン・ホーキング著『ビッグ・クエスチョン−<人類の難問>に答えよう』(NHK出版)。青木薫訳。

 

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