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【書評】

大学改革の迷走 佐藤郁哉(いくや)著

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◆無責任な教育行政 原因を検証

[評]粂川麻里生(くめかわ・まりお)(慶応義塾大教授)

 「大学教育の危機」をテーマにした書籍の中でも、本書は先行する議論を踏まえつつ、問題を広範にリサーチした上で、新書(約四百八十頁(ページ)あるが)らしくかみ砕いて論じているという点で、現時点での決定版と言えるだろう。

 著者は、「シラバス」の問題から議論を始める。全国の大学のあらゆる授業担当者が、各回の授業内容等についてこまごまと記した「シラバス」を作らされ、大学事務室はそれを分厚い冊子やウェブサイトにまとめて、一覧できるようにしている。だがこんなことをしても教育効果は別に上がらない一方で、教員や事務員はとてつもない労働を強いられ、大学はますます疲弊し、「世界」との差は開いていく。しかも、文科省がモデルとしているはずの、アメリカの大学のSyllabusはこういうものでは全然ないのだ。

 この類いの「失政」がまかり通るばかりか、誰もその結果をチェックできない「総無責任体制」がどのようにして生じたのか、著者は検証していく。その結果見えてくるのは、企業経営ノウハウの大学行政に対するきわめていいかげんな応用だ。PDCA(P・Plan<計画>、D・Do<実行>、C・Check<評価>、A・Action<改善>)はその象徴だという。ここ十数年のうちに、教育行政において常套句(じょうとうく)となったが、文科省の目標設定があまりにポエム的なため、その達成は「評価」しようがなく、「改革のための改革」の無限ループは閉じる。大学側も「忖度(そんたく)」や「面従腹背」の態度で、本質的な行動はできないまま年月を過ごしてしまった。

 本書の提示する「処方箋」は、以下の二点だ。(1)特定の誰か(大学自体、文科省など)を悪者に仕立てる一方で、誰かをスーパーヒーロー(米国の大学など)とみなす思考回路からぬけ出す。(2)確実な実証的根拠にもとづいて政策を立案して実行していく。評者も、この結論には全面的に同意する。大学のみならず、日本のきわめて多くの現場で、これを実行していかなければ、わが国の明日は見えてこないのではないか。

(ちくま新書・1320円)

1955年生まれ。同志社大教授。著書『社会調査の考え方』など。

◆もう1冊 

山口裕之著『「大学改革」という病−学問の自由・財政基盤・競争主義から検証する』(明石書店)

 

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