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【書評】

箱根のメンタル 設楽悠太、神野大地、渡辺康幸、藤田敦史ほか著

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◆17選手それぞれの道のり

[評]満薗文博(スポーツジャーナリスト)

 編集者も、そして何より、語った森田歩希(ほまれ)(青学大OB)本人がびっくりしただろう。本書が出たのは昨年十二月。そこからわずか一カ月足らずで行われた第九十六回箱根駅伝は、見事に森田の言葉をひっくり返してしまった。本書で森田は語っている。

 「記録が破られないか、すごく気になりますね。自分の子どもができるときくらいまで残っていてほしいです(笑)。自分で言うのも変ですが、あのタイムは結構速いと思っているので、相当コンディションがよくない限りは大丈夫だと思うんですけれど。破られないことを願っています(笑)」

 森田が往路3区で区間記録を作ったのは、一年前の正月だった。それが今年の正月には書き換えられた。数十年にわたって「箱根」を取材してきた私は、今年の大会の異常ぶりを肌で感じた。話題の「厚底シューズ」の脅威の前に、森田の自慢の記録もひとたまりもなかったのである。

 件(くだん)のシューズには賛否があって、先ごろ、世界陸連が条件付きでOKを出したが、高速革命がもたらした歴史的な大会を前に出た本書の立ち位置は興味深い。厚底以外のシューズで刻まれた箱根路の記録が、十七人の元選手らの口で語られる。関東の学生が、同じように襷(たすき)をつないで走り、傍観者の立場から見たら、どの場面も似たような絵に見えるかもしれない。だが、一人として同じ人間はいないことを、十七編からなるオムニバスは伝えてくれる。いつ、どこで長距離走と出会い、箱根を走るに至ったか、その結果、何が生まれ、何が残っているのか、それぞれの事情の違いは読み比べるとおもしろい。

 箱根路を彩り、一流の世界へと歩みを進めた設楽悠太、神野大地、渡辺康幸、藤田敦史らが、副題にある「箱根駅伝から僕たちが学んだこと」を語る。

 だが、最後に。老記者は、どうも偏屈になっていけない。「箱根のメンタル」に、走りたくても「事情」があって、走れなかったランナーたちの一編、いや続編があってもいいと思うのだ。

(宝島社・1650円)

青学、東洋、駒沢、中央、早稲田、東海、日本体育各大学の箱根駅伝選手ら17人。

◆もう1冊 

佐藤俊著『箱根0区を駆ける者たち』(幻冬舎)

 

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