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【千葉】

<地域と歩んで 崙書房の半世紀> (上)昭和から令和 郷土編む

崙書房出版の小林規一さん(右)と金子敏男さん

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 「ふるさと文庫」シリーズで知られ、県内の歴史や自然、地理、人物などをテーマに、昭和、平成、令和と数々の郷土の本を出版、編纂(へんさん)してきた流山市の崙(ろん)書房出版が経営難を理由に七月三十一日に解散、業務を終える。本づくりだけではなく、熱心な読者から転じた多くの書き手たちを育てた同社には、郷土作家らから感謝の声が絶えない。関東の地方出版社の雄が、来年の創業五十周年を前に、惜しまれつつ、その歴史を閉じる。 (林容史)

 崙書房は一九七〇(昭和四十五)年、初代社長の小野倉男さんが創業した。当初は、「利根川図志」「新編常陸国誌」、長塚節や横瀬夜雨の全集など常総(常陸、下総、上総)地方の基本文献の復刻が中心だった。七七年に「利根運河−利根・江戸川を結ぶ船の道」(北野道彦著)の出版を皮切りに、その後の崙書房の顔となる新書サイズのふるさと文庫がスタートした。

 目録には利根川、新選組、流山電鉄といった地域にまつわるタイトルがずらりと並ぶ。今年五月三十日に発行した二百十七タイトル目の「房州那古寺界隈(なごじかいわい)」(大場ヤス子著)が最後の文庫となった。

 一九九八年に三代目社長として経営を引き継いだ小林規一(のりかず)さん(72)は、昨年から「このままでは企業としてやっていけなくなる」と危機感を募らせていた。崙書房を支えてきた地域の書店が、ここ十五年で相次いで廃業していった。直接、取引する書店はピーク時、県内に二百〜三百店あったが、現在では六十店ほどまで減少。「地域に関心を持ち、本を読んでくれた世代が高齢化し、読者が減ってしまった」ことも経営を厳しくした。

 崙書房では、愛読者が自分が興味を持ったテーマを持ち込み、膝詰めで議論しながら出版にこぎ着け、新しい郷土作家としてデビューするサイクルが出来上がっていた。「読者の減少は書き手が減ることにもなってしまった」と小林さんは残念がる。かつて年間二十〜三十冊だった出版点数も、ここ数年は四、五冊まで落ち込んでいたという。

 首都圏を中心に地域出版は次々と姿を消しているといい、小林さんは「自分が住む地域に興味を持たない人はいない。地域ごとに出版社があっていいはず」と訴える。一方で「プロの作家でも学者でもない地元の人たちが、みんなに知ってほしいと思う地域のテーマについて丹念に調べ一冊、一冊本にしていった。著者と読者が同じ視点で本がつくれたことは楽しかった。残念だけど、悔いはない」とも話す。

 七二年入社の古参で編集担当の金子敏男さん(71)は東京都内の高等専門学校の機械工学科を出た後、「本が好きという理由だけで会社に入った」という。見よう見まねで編集作業を覚え、写植から活版、コンピューターと「印刷の歴史は一通りやってきた」と胸を張る。「もう、いいでしょう。ファンがいるうちにやめるのが幸せ。後はAI(人工知能)にやってもらいましょう」と笑った。

 残った本の仕上げや書店からの在庫の引き揚げなどに追われる小林さん。「書棚の片隅に崙書房の本が置かれていたらうれしい」とさみしそうに漏らす。

 問い合わせは崙書房出版=電04(7158)0035=へ。

昭和50年代の崙書房=崙書房出版提供、いずれも流山市で

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