東京新聞のニュースサイトです。ナビゲーションリンクをとばして、ページの本文へ移動します。

トップ > 千葉 > 記事一覧 > 6月の記事一覧 > 記事

ここから本文

【千葉】

<地域と歩んで 崙書房の半世紀> (下)読者から書き手へ

崙書房から15冊の著作を発表した青木更吉さん=いずれも流山市で

写真

 崙(ろん)書房出版は、読者から書き手に転じた郷土作家の作品を多く発表してきた。これまで十五冊の本を出した流山市の郷土史作家、青木更吉(こうきち)さん(86)もその一人。「崙書房に書かせてもらったから現在の自分がある」と自身の作品を受け止めてくれた同社に感謝する。 (林容史)

 東京都葛飾区の小学校で教諭を務めていた一九七九(昭和五十四)年、ふるさと文庫で第一作の「流山の伝承遊び上・下」を書いた。「素人がどんどん書いているのを見て、書こうという気になった。ふるさと文庫がなかったら読み手で終わっていた」と振り返る。

 歳時記、わらべ歌と「子どもの民俗」三部作を書き上げ、退職後、免許証を持たない青木さんは折りたたみ自転車を抱えて電車に乗り、幕府の放牧場だった県内の牧を歩いて回った。

 「売れないかも…」と申し訳ない気持ちで原稿を持ち込むと、崙書房社長の小林規一(のりかず)さん(72)は、いつも「これは崙書房にとって出さなければならない本です」と、一度も出版を見送らなかったという。「素人にとって、それがうれしかった」と青木さんはしみじみと口にする。

「福田村事件」を書き上げた辻野弥生さん

写真

 一九二三(大正十二)年、関東大震災直後の流言飛語の影響で、香川県から来た行商団が福田村(野田市)で自警団に暴行され、幼児を含め九人が殺害される事件があった。地元の住民が口をつぐむ暗い歴史を、二〇一三年、同人誌「ずいひつ流星」を主宰する流山市の辻野弥生さん(78)が「福田村事件 関東大震災・知られざる悲劇」にまとめ、ふるさと文庫に収めた。知人から「野田の人間には書けない」と記録を託されていたテーマで、編集担当の金子敏男さん(71)が背中を押してくれたという。

 辻野さんは、崙書房二代目社長の白石正義さんにもインタビュー。販売を一手に引き受けて茨城県に販路を広げ、書店を巡って自社の本が片隅に追いやられていないか目を光らせる八十歳の姿が当時のタウン誌に掲載された。

 「流山に引っ越してきて、地元に出版社があることが誇りだった。ベストセラーはなくとも、地域を知るために大事な出版社だった」と辻野さんは惜しむ。

 ◇ 

 流山市立森の図書館は、企画展「ありがとう崙書房出版」を二十日〜七月二十日に館内のギャラリーで開く。二百点に上るふるさと文庫をはじめ創業当時からの看板、四十五周年記念会の写真などを展示する。市内在住のノンフィクション作家佐野真一さんは「千葉の良心が いや、日本の良心が静かに消えた」と自筆の一文を寄せている。

 同館では、カウンター前に崙書房の特設コーナーを開設している。司書の高橋道子さん(70)は「埋もれている地域の出版社の本を読んでもらいたかった」。館長の川島威史(たけし)さん(41)は「図書館には本が残る。展示が、郷土に目を向け崙書房の本を読むきっかけになれば」と願っている。

 月曜休館。七月十五日開館、十六日休館。問い合わせは森の図書館=電04(7152)3200=へ。

 市立中央図書館でも七月二十四日〜八月三十一日に展示を行う。

流山市立森の図書館に開設されている崙書房出版の特設コーナー

写真
 

この記事を印刷する

東京新聞の購読はこちら 【1週間ためしよみ】 【電子版】 【電子版学割】

PR情報