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【過ぎし楽しき千葉の日々 椎名誠】

ぼくたちの襲撃作戦 根気よく、静かに、あきらめず

幕張新都心の一角に広がる未利用地。かつて少年たちが遊んだ「草原」の風情を残す=千葉市美浜区で

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 ハラシマとクマダは中学二年。ぼくたちと一年しか離れていないのにその頃の記憶ではかれらは随分年上に思えた。

 その日いきなりはじまった海の家の「売店襲撃」は、最初のうちはクマダのいう「そういうのけっこう面白いんだ」という「気分」のほうが先にたっているような気がしたのでさして抵抗感はなかったが、いざ実際にハラシマとともに問題の錠前引き抜き作戦に取りかかると、ふいに奇妙な現実感をもって少し恐ろしさが走った。

 ハラシマはぼくが持っていった木っ端のいくつかを試すように取り換えながらその効果を試しているようだった。やがてそれらの木っ端のなかで一番手応えのある一本を見つけたようで、錠前本体には手をつけず、それをとめているそこそこ頑丈な柱に打ちつけてある大きな目釘(めくぎ)の上下をたたきはじめた。そんなに力をこめず、軽く上から三回、下から三回、という程度だ。でもぼくが驚いたのはそれを思いがけない根気のよさでかなり長いこと繰り返していることだった。

 なんでも乱暴でがさつに見えるハラシマがそのようなことをやるのが不思議だった。

 思い切りたたくのとちがってそうやって慎重にたたいているとさすがに疲れるらしく、ハラシマは十分ほどでクマダに変わった。

 実質的にはわからなかったが、そうやって小さく何度も同じことを繰り返しているとあの頑丈に打ちつけてある大きな目釘が目に見えていくらか浮き上がってきたように見えた。

 ハラシマは手でその成果の具合を見ているようだった。

 「よし。ちゃんとうまくいっている。ゆっくり何度か交代しよう。だけどお前のバカ力で思い切りたたくんじゃないぞ」

 木っ端をわたしながらハラシマは言った。

 「わかっているよ。ヒロシマみてえにこまかいことをグズグズ言うな」

 クマダの言ったヒロシマというのはぼくたちの通っている中学の教頭の名だった。朝礼のときなど、教頭であるヒロシマの各項目にわたる注意事項のくどくてながたらしいのは、ぼくたちの中学では「のっぺり蛇の長グソ」と言われていた。その土地で以前から言われていることで真相は不明だが「のっぺりヘビ」というのがいて、そいつがクソをすると自分の長さぐらいの細くて長いクソを長い時間かけてするので、見つけるとみんなの見物の対象になったという。

 ぼくは見たことがなかったけれど一度ぐらいは見たいと思っていたが結局そのチャンスはなかった。

 けれどヒロシマ教頭は痩せて細長く、のっぺりヘビによく似ていたのかもしれない。

 クマダはハラシマのやり方をよく見ていたようで同じ動作を同じスピードで進めた。三〜四度ずつ交代したところでハラシマは「ようし、やったぞ」と小さく低く叫んだ。 (作家)

 

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