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【過ぎし楽しき千葉の日々 椎名誠】

ぼくたちの襲撃作戦2 財宝探しドキドキの“感触検査”

初冬の人工海浜「幕張の浜」。男性が身をかがめて写真を撮っていた=千葉市美浜区で

写真

 ハラシマとクマダが絶妙なタイミングで上から下からたたいていた大きな目釘(めくぎ)が目で見てわかるくらいにはっきり緩んできているのがわかった。やがてそれまでしっかり握っていたハンマー代わりの石を足元に置くと、ハラシマは素手でその目釘をつかむとさらにこまかく上下にゆさぶっていった。

 目釘ははっきりそれとわかるくらいに緩んできたがハラシマは「おーい、誰か手をかせ」と言っていったんそこから離れた。いままでずっと右手でゆすっていたのだが赤くなってきた指先をもういっぽうの手でこすりながら、数歩さがって目下の成果を眺めた。

 体の大きなクマダがまたハラシマに代わり、同じようにやると間もなく目釘と一緒に錠前の全体がポロンというふうにそっくり抜けた。

 ハラシマが最初に目釘にとりついてなんだかんだで三十分ぐらいかかったけれど、成果は確実にあがっていたのだ。

 目釘ごと外れた板戸は簡単に開くようになった。その内側は、夏のあいだよく目にしていた売店がそっくりあらわになった。

 でも夏のときとはちがっていろんな商品の上に細紐(ひも)で縛った直径五十センチぐらいの包みが乱雑に積み重ねてあり、売店ではなくやはり全体が倉庫然としていた。その小さな囲いのなかにはたくさんのフナムシが住んでいたようで、それらはどうやらハラシマたちが目釘外しのためにガンガンやっているうちに大半が逃げてしまったのだろうけれど、ふいに明るくなったために残ったフナムシも一斉に逃げ出してしまったようだった。

 「やった!」

 ハラシマが言うと「おれたちの努力の成果だ」とまわりを囲むぼくたちが口々に言った。

 ハラシマはそのあたりではっきり盗賊団の首領みたいな不思議な落ち着きぶりを見せて、売店の中に積まれている包みのひとつをもちあげ、外側を覆っている汚れた布の中のものの感触を調べていた。ひとつの“感触検査”が済むと別のものを調べていく。

 「お前らはさわるなよ」

 その検査をしながらハラシマは妙に低い声で言った。同時に「だれか外の様子を見て知らない奴がまわりにいないか見張ってくれ」と言った。

 その役目はぼくたち一年生が手分けしてやった。ぼくもひととおり海の家の周辺の様子を見て回った。いつのまにか太陽の位置がずいぶん動き、人工草原の風景も時間の経過を全体の明るさではっきり示していた。

 ハラシマのところに戻るとみんなの顔を見て「だめだ。財宝は何もない。このフクロの中身は座布団とか毛布やタオルなんからしい。元に戻すのが面倒だからどれもフクロは開けなかったぞ」といかにも無念そうに言った。それからみんなでそのフクロを元のように戻し、ドアを閉めると目釘ごとまたしっかり錠前鍵を石で打ちつけた。作戦は失敗したが鍵はちゃんと元のようになった。 (作家)

  

 

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