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【社説】

再審開始決定 捜査も裁判も猛省を

 滋賀県の呼吸器事件で殺人罪が確定し服役した西山美香さん(39)の再審開始が最高裁で確定した。自白偏重の捜査や、下級審判決の矛盾を見逃し、有罪判決を繰り返した司法に猛省を求めたい。

 二〇〇三年五月、滋賀県の病院で植物状態の男性患者=当時(72)=が死亡し、当直の看護助手西山さんが、人工呼吸器のチューブを外したと自白し、逮捕された。

 西山さんは公判で否認に転じたものの、殺人罪で懲役十二年が確定した。二回目の再審請求で大阪高裁は一七年十二月、「自然死だった可能性がある」と再審開始を決定。最高裁は検察側の特別抗告を棄却し、再審開始が確定した。

 この事件の教訓は、大きく分けて二つある。

 一つは、自白偏重の捜査。西山さんは捜査の過程で、呼吸器の異常を知らせるアラームを「聞いた」と供述。これにより、一緒に当直していた同僚が「聞き落として死なせた」と窮地に陥った。それを知り、「鳴っていませんでした」と翻した末、「自分がチューブを外した」と、殺人を“自白”してしまう。動機は、看護助手の待遇への不満とされた。

 西山さんは二回目公判で否認に転じた。精神科医による検査で、軽度の知的障害と発達障害の傾向ありと診断された。捜査員に迎合しがちで自己防御も弱い“供述弱者”だというのだ。大阪高裁の再審開始決定は「警察官や検察官の誘導があり、それに迎合して供述した」と指摘している。自白偏重への警鐘である。

 二つ目の教訓は、下級審の判決文の矛盾を見過ごした上級審のあり方だ。

 捜査段階の鑑定書では、チューブは(窒息につながる)「外れていた」だった。それが、起訴状で(自然死の可能性がある)「接続されていた」に変わり、確定判決でも維持された。死因はどの段階でも(事件性があるかもしれない)「窒息死」となった。

 前提が百八十度変わったのに、死因は同じという食い違い。これには、再審開始決定に至る七つの法廷は触れなかった。最後の大阪高裁だけが「(外れていたとする)鑑定は信用できない。自然死の可能性がある」と述べた。

 再審開始が確定し、この事件は西山さんの無罪が確実になった。事件発生から十六年。再審が捜査や裁判のあり方を問い、「なぜこんなにかかったのか」を究明する場になることを期待する。

 

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