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【社説】

「年金」報告書 逃げずに実情を語れ

 年金だけでは老後生活は立ち行かない、だから自身で貯蓄に励め−。金融庁が公表した報告書に批判が集まっている。背景には、制度の実情について政府の説明不足があるからではないのか。

 老後の生活を支えられる給付が得られるのか、そこを知りたい。しかし、十日の国会論戦で政府はこの疑問に明確に答えなかった。逃げているように見える。

 金融庁の報告書は、高齢期を迎えた夫婦だと年金収入だけでは月五万円の生活費が不足する。老後が三十年として二千万円の蓄えが必要との試算を示した。

 金融庁には「貯蓄から投資へ」を掲げ個人資産の運用を広げたいとの考えがある。報告書も資産運用の重要性を訴え「資産寿命」を延ばす「自助」を促すことが狙いなのだろう。

 だが、そうは受け取れない。

 厚生労働省の国民生活基礎調査によると、確かに高齢世帯の平均貯蓄は約千二百万円ある。だが、貯蓄のない人は全世帯の約15%、母子世帯では四割近い。現役世代は非正規雇用が増え貯蓄する余裕のない人も少なくないだろう。

 給付額もさまざまだ。国民年金加入者は最大でも月約六万五千円ほどで年金だけでは暮らせない。報告書は、国民の置かれている現状や感じている将来への不安に鈍感すぎるのではないか。

 さらに報告書は年金制度への不信も拡大させかねない。

 二〇〇四年の制度改正で政府は考え方を転換した。高齢化と制度を支える現役世代の減少に備え、現役世代が払う保険料の上限を決め、そこから得られる財源で給付をまかなうことにした。だから給付水準を少しずつ下げるルールも導入した。将来に向かって水準の目減りは事実だ。

 事実上、十分な給付の確保より制度の維持を優先させた。「百年安心」とは、将来へ制度の維持ができるとの意味だろう。

 社会保険である年金は保険料を出し合って支える「共助」の仕組みだ。制度を支えるには現役世代が減る以上、増える高齢者の給付を抑えていかざるを得ない。

 社会保障は給付減や負担増など「負担の分配」の議論から避けて通れない。それだけに国民の理解が不可欠で、政府には制度の実情や対策を丁寧に語る責任がある。

 政府は五年に一度、年金財政の“健康診断”である財政検証を公表している。今年がその年に当たる。参院選前に公表し国民に説明すべきだ。

 

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