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【社説】

被爆者の声 なぜ首相には届かない

 被爆者とは、核の力を身をもって知る人たちだ。だから「もう二度と被爆者を生まないように」と祈りを込めて、核廃絶を訴えてきた。だがその声が「唯一の戦争被爆国」の宰相には、届かない。 

 九日の長崎平和祈念式典。被爆者代表の平和への誓いは、鮮烈だった。八十五歳の山脇佳朗さんである。

 被爆翌日、焼け跡で見つけた父親の崩れた遺体が怖くなり、置き去りにして逃げ出したという“告白”のあと、山脇さんは来賓である首相に直接呼び掛けた。

 「被爆者が生きているうちに世界で唯一の被爆国として、あらゆる核保有国に『核兵器を無くそう』と働き掛けてください」と。

 あまりに悲しい記憶に向き合い、満天下にさらすのは、さぞかしつらいことだろう。だが、それも「被爆の実相」だ。山脇さんは病身を押して、しかし毅然(きぜん)と語ってくれた。

 広島と長崎で原爆の犠牲になった何十万もの魂が、背中を押していたのだろうか。

 それに対して安倍晋三首相。「核兵器国と非核兵器国の橋渡しに努め、双方の協力を得ながら対話を粘り強く促し、国際社会の取り組みを主導していく」と、結局は「橋渡し」役にとどまる“決意”は、去年と同じである。

 日本はおととしの夏に採択された核兵器禁止条約に参加していない。米国の核の傘の下にいるからだ。そもそも橋渡し役とは中立の立場でするものだ。一方の岸にしがみついたまま、どうやって橋を架けると言うのだろうか。

 居酒屋談議やゴルフの合間に、トランプ米大統領に「核廃絶」を勧めることがあったとしても、現実を見る限り、逆行が加速しているとしか思えない。

 米ロの中距離核戦力(INF)廃棄条約が失効したばかり。再来年には期限が切れる新戦略兵器削減条約(新START)の前途にも暗雲が垂れ込める。トランプ政権は「使える核兵器」と呼ばれる小型核の開発に力を入れている。

 中国も核戦力を増強中。世界は核軍拡の暗黒時代に逆戻りの様相だ。ヒロシマの、ナガサキの声は届いていないのか。

 それでも、いや、だからこそ、山脇さんの言葉を借りて、私たちも訴える。

 「この問題だけはアメリカに追従することなく核兵器に関する全ての分野で『核兵器廃絶』の毅然とした態度を示してください」と。

 

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