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【社説】

週のはじめに考える ミイラ取りの未来

 いわゆる中国脅威論。乱暴な振る舞いも多い新興大国ゆえ、恐れは分かるのですが、脅威はむしろ「あっち」でなく「こっち」の内部にある気もして…。

 三十年前、中国の経済規模はまだイタリアの半分ほどでした。それがどうでしょう。その後、飛躍的成長を遂げ、二〇一〇年には国内総生産(GDP)で日本を抜いて、今や世界第二位の経済大国。大ざっぱに、まずは安い賃金と豊富な労働力が国外からの投資を引きつけた「世界の工場」として、さらには巨額のインフラ投資と国内消費の伸びに支えられた「世界の市場」として、グローバル経済に確固たる地位を築いたのです。

◆金に目がくらんで

 では、政治はどうか。中国共産党の一党支配に拠(よ)ってきたる人権侵害など非民主的体制について、日米欧など民主主義・市場経済陣営−「西側」はかつて、口を酸っぱくして変化を迫ったものです。天安門事件の後も経済制裁を科すなど、民主化を強く求めました。

 経済的成功が民主化を導くとみる楽観論もありました。例えば世界貿易機関(WTO)加盟が確実になった時の本紙社説も「国際ルールに基づいた透明な市場競争」などによって「政治の民主化も期待できる」と…。

 しかし、実際は全くそうはならなかった。

 一つは「西側」に責任がありましょう。経済発展の援助をカード

に、民主化を促す策を放棄した節があるのです。

 「金に目がくらんで」と言えば言い過ぎだとしても、「世界の工場」をせっせと利用して低コストの恩恵をむさぼり、「世界の市場」の購買力に耽溺(たんでき)するうち、人権状況などを批判する口数は減り、民主化を迫る声が小さくなっていった感は否めません。

 結果、独裁的体制と強大な経済力が併存する大国が出現したわけです。それどころか、議論や手続きに時間もコストもかかる民主的体制より、独裁的体制の方が競争力を持つ面もあらわになってきているのですから、やっかいです。

 しかし、本来は、民主的で自由な社会でなければ、成長の原動力たる産業革新(イノベーション)は起こりにくく、経済伸長には限度があるはずです。中国は、どうやったのか? 国家主導の産業政策、外国企業からの技術移転の強制や知的財産の盗用などでそれを“カバー”したと、米国はみています。米中貿易戦争の狙いとは、その流れに歯止めをかけることにほかなりません。

 この争いは単なる経済紛争でなく「二十一世紀の世界のありようを巡るイデオロギー戦争」だとする記事が過日、米紙ニューヨーク・タイムズに載っていました。

◆民主主義の退潮

 曰(いわ)く、批判者を拘束し、言論の自由を封じ、テクノロジーを駆使して国民を監視下に置くシステムを作り、ウイグル族を収容施設に送って「再教育」をする。まるでジョージ・オーウェルが『1984』で描くような全体主義的な国家が世界の新秩序を主導することになっては悪夢だ−。記事の趣旨はまあ、そんなところで、頷(うなず)くところ大ですが、しかし、あらためて「西側」に目をやると奇妙なことにも思い当たるのです。

 米大統領は人種や宗教による差別的言動を繰り返し、批判は「フェイク」呼ばわりしてメディアを攻撃する。自国主義に耽(ふけ)り、経済力と軍事力を誇示して多国間の協調やルールを傷つけています。

 わが国の宰相も民主主義の基盤たる国会での議論を軽んじ、異論を敵視する傾向が明らかですし、一方で、与党政治家の街頭演説をやじっただけで警察に排除されるといったことも起きています。また、欧州で台頭するポピュリズム・極右勢力には排他主義の主張が目立ち…。

 どうでしょう。総じて「西側」の中で、市民的自由や多様性や寛容などの価値観減衰、民主主義の退潮が見て取れないでしょうか。

 連想するのは<ミイラ取りがミイラになる>という少し不思議な成句。要は、相手を説得しようとして逆に説得される、「あっち」の考えや姿勢を変えようとして、「こっち」が変えられてしまう、といった意です。

◆「中国化」への抵抗

 「西側」は中国を変えようとして変えられなかったばかりか、中国を利用し依存し続けるうち“中国的”に変質させられ始めている−。そう見えてならないのです。脅威というならむしろ「こっち」が「あっち」の色に染まりかけている点に、より切迫した脅威を感じます。このままだと、私たちの未来は…ミイラでしょうか。

 今、最も鮮明に、言論の自由、法の支配など民主主義を守るべく必死で「中国化」に抗(あらが)っているのが、他ならぬ中国の内部、香港の若者たちであるというのは皮肉といえば皮肉です。彼らを孤立させるわけにはいきません。

 

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