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【コラム】

筆洗

 少女が十二歳の時、父親は家を出ていった。寂しい生活にも夢があった。ダンサーになる。幼い時からレッスンを受けてきた▼ある日、大きな町へ出て、ダンスで生きると決意する。悲劇は出発の前夜に起きる。少女の乗った車が列車に衝突し、大切な脚に大けがを負う。ダンサーの夢をあきらめた▼長い入院生活。一つの楽しみに出会った。ラジオから流れる音楽。自分もそれに合わせて歌う。上手に歌える。今度は歌を目指そう。やがて少女は米国を代表する歌手、そして女優になる。「ケ・セラ・セラ」「センチメンタル・ジャーニー」などのドリス・デイさんが亡くなった。九十七歳。陽気さと秘めたる意志の強さ。一九五〇年代の米国の理想の女性像でもあった▼子どもの時、母親にこう聞いた。私、大きくなったら美人になるかしら、お金持ちになるかしら。代表曲の「ケ・セラ・セラ」はそんな歌である▼母親の答えが「ケ・セラ・セラ」(なるようになるわよ)。歌は続く。そして今、自分の子どもに同じことを聞かれる。私の答えも「ケ・セラ・セラ」▼未来は分からない。だから心配したってしかたがない。そう教えてくれる。その明るい歌声が困難にある人の心をどんなに軽くしたことか。歌に励まされるのはきっとその人も、いくつもの悲しみや試練を「ケ・セラ・セラ」で乗り越えてきたからなのだろう。

 

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