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【記者たちの胸ポケット】

裏メニューは今/小笠原の愛/街の香り

神野光伸(41)社会部記者 

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◆裏メニューは今

 旧築地市場にあった「吉野家」の国内一号店には裏メニューがあった。ご飯の下に牛肉を盛る「ニクシタ」、肉の脂身を増減させる「トロダク」「トロヌキ」などだ。肉を多めに盛った「アタマの大盛」もこの店が発祥。味にうるさい市場関係者や仕入れ人ら常連のために生まれたという。

 アタマの大盛は通常のメニューと区別するため、緑色の丼を使っていた。豊洲へと市場が移転する直前、客から「裏メニューや緑の丼はどうなるの?」と問われた古参の女性店員は「普通の吉野家と一緒になるわね」と残念そうに答えていた。

 ところが、新店舗は裏メニューを受け継ぎ、丼も緑から黒に色を変えて残った。「常連の顔を覚え、入店直前から牛丼を用意するのが一号店の慣習。豊洲でもしっかり引き継ぎたい」と広報担当者。築地の粋な心は、こんなところにも残っている。

◆小笠原の愛

 本紙が主催する教育賞の取材で急きょ、小笠原諸島の母島に向かうことに。数年前に都心から島の小学校に赴任した男性教諭に話を聞いた。ところが、人口五百人に満たない小さな島にある十数軒の民宿は、全て予約で埋まっていた。

 途方に暮れて取材した先生に相談すると、「うちに泊まりなよ」。家族も笑顔で迎え入れてくれた。「島民はみんな家族のようなもの。助け合うのが小笠原の伝統ですから」と先生。思いがけず、小笠原の深い愛に触れることができた。

◆街の香り

 「最後の砦(とりで)だった『三好野(みよしの)』が年末に撤去されました」。下北沢在住のミュージシャンから連絡があった。下北沢駅前の食品市場にあった狭くて古い居酒屋。ミュージシャンや劇団員が肩を寄せ合い、夢を語らう場だった。食品市場が取り壊され、三好野も一年前に閉店したが、建物だけは再開発にあらがうようにポツンと残っていた。

 「シモキタを象徴する店でした。ダサさや弱さを受け入れてくれて。雑多な中にも気高さがあるような」

 店があった場所は喫煙所に。ガラス張りの新駅舎も近く完成する。それでもミュージシャンは「温かく受け入れてくれる場所も人もシモキタにはまだまだある」。変容する街の変わらぬ人たちに、これからも会いたい。

<神野光伸(じんの・みつのぶ=41)社会部記者> 愛知県出身。2001年入社。都内のニュースを担当。閉場する築地市場を約1年間取材した。趣味は旅。成長著しく、アロマの香りが漂うアジアにはまっている。

 

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