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【記者たちの胸ポケット】

特捜部の変化/酒どころでは/窃盗犯の青年

池田悌一(43)社会部記者

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◆特捜部の変化

 司法記者クラブの本紙ブースは広さ十畳ほど。先日、山のように積まれた資料を整理した。

 一冊のファイルから出てきたのは、私が検察担当だった六〜七年前の取材メモ。大阪地検特捜部の検事による証拠改ざんという前代未聞の不祥事の後で、検察幹部から「しばらくは独自事件なんてやれないんだから取材に来なくていいよ」と袖にされた苦い記録が残されていた。

 昨夏、クラブに復帰すると、特捜部は文科省汚職など次から次に独自事件を手掛けるようになっていた。旧知の幹部は「むちゃな捜査をしたら今度こそ終わり。慎重にやってるよ」と言う。その言葉を信じていいのか、考えながら取材している。

◆酒どころでは

 日産自動車の前会長カルロス・ゴーン被告とその側近の事件の取材で大忙しだった昨年暮れ。「趣味は酒」の私だが、飲み屋への足が遠のいて一カ月になろうとしていた。

 深夜の路上で被告側の関係者に接触していたとき、近くの居酒屋から忘年会らしき、にぎやかなグループが出てきた。この関係者は検察当局に激しく怒っていたが、グループの楽しげな姿を見て、私よりも先に「いいねえ」と漏らした。

 異国で勾留されている被告の二人こそ、やりきれない気持ちなんだろうな−。そんな思いが胸をよぎった。

◆窃盗犯の青年

 名古屋の司法担当だった数年前、名古屋地裁の小さな法廷に、窃盗罪に問われた二十歳の青年の姿があった。

 青年は生まれる前に父を亡くし、母が別の人との間にもうけた弟と妹の面倒をみながら暮らしていた。ところが十六歳のとき、母の再婚相手に「気が合わん」と邪険にされ、母も「自立して」。家を飛び出した。

 職を転々とする中でトラブルが起き、親を呼ぶように言われたが、頭を下げる気も合わせる顔もない。かつての勤務先から四万円を盗み、都会に逃げた。

 「人として最低なことをした。実刑にならなかったことをチャンスと思い、まじめに働きたい」。青年は執行猶予付きの有罪判決後、私にそう語った。

 今も法廷で、誰かがそばにいれば罪を犯さずに済んだのでは…と思う被告に出会うことがある。そんなときふと、青年の純朴そうな顔がまぶたに浮かぶ。

<池田悌一(いけだ・ていいち=43)社会部記者> 東京都出身。2000年入社。事件や裁判を担当する司法キャップ。若いころ「文学座」の研究生として役者を志したことも。「渡鬼」女優と夫婦役を演じたのが自慢。

 

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