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【記者たちの胸ポケット】

伝わらぬ疎外感/かばんの手紙/足のない男性

中村真暁(33)社会部記者

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◆伝わらぬ疎外感

 東京都荒川区でマンション火災に遭い、逃げ延びた聴覚障害の高齢女性を取材するため、女性と友人たちとの集まりに同席した。コミュニケーション手段はほとんど手話。参加者は笑い、悲しみ、和やかに交流していた。一方で、手話ができない私は内容が分からず、ただ座っているだけ。つらかった。時計の針を眺めながら、時が過ぎるのをひたすら待った。

 手話通訳士を通じたその後の取材に、女性は「避難先では手話が伝わらず困った」と打ち明けた。緊急の場面で意思疎通できず、私とは比べようもない不安や疎外感があっただろう。聴覚障害は外見で分からず、配慮もされにくいという。その困難さを共に乗り越えるにはどうすべきか、考えていきたい。

◆かばんの手紙

 薬物依存症の男性から、職場に手紙が届いたのは半年ほど前。取材先で知り合い、治療を受けていると聞いていた。手紙には「また薬物を使ってしまった。自分は最低の人間だ」と後悔の言葉があふれていた。

 私も過食と嘔吐(おうと)を繰り返していた摂食障害の当事者だ。依存から抜け出せない自分を責める男性に思いを寄せ、時間をかけて返事を書いた。送り先が分からず困っていたころ、男性が逮捕されたと人から聞いた。

 薬物犯罪の再犯率は高い。社会に出た後、男性を受け入れる場所が薬物以外にあるだろうか。いつか男性に渡せるようにと、手紙はいつもかばんに入っている。

◆足のない男性

 簡易宿泊所が集まる山谷地区(台東、荒川両区)でときどき、炊き出しに参加している。昨秋、路上で横たわる高齢男性におにぎりを渡したときだった。

 「悪いね、ごめんね」。顔を上げた男性は、合掌しながら何度も私に謝った。見ると、片足の足首から下がなく、包帯がぐるぐると巻かれていた。「どうしたんですか?」と聞くも、聞かないでとばかりに「ごめんね」を繰り返した。助けを求めても当然の状況で謝る男性が、ふびんだった。

 知り合いの支援者は「山谷では偏見を持たれることに慣れ、卑下する人が多い」と指摘する。苦しくても、声を出せない人がいる。声なき声にもっと耳を傾けられるようでいたいと、日々思っている。

<中村真暁(なかむら・まあき=33)社会部記者> 石川県出身。2009年入社。したまち支局で地域の話題を担当。趣味は映画鑑賞で、作品を見て泣くことが多い。好きな映画館は飯田橋ギンレイホール。

 

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