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【記者たちの胸ポケット】

郷に入っては/50年の孤独/地元をなめるな

松村裕子(51)社会部記者

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◆郷に入っては

 「あれ」。赴任して間もない昨夏、車で東京都町田市の郊外を走っていると、青い稲が目に飛び込んできた。地方では当たり前の田園風景も、都内では珍しい。

 「町田ではコメを作っているんですか」。早速、地元のJAに電話した。驚いたのは市産米が市内のホームセンターで買えること。「郷に入っては郷のコメを食う」を旨としてきたが、区部に住んでいた時は関東圏に拡大解釈せざるを得なかった。やっと東京のコメを見つけた。

 代々の農家や新規就農者の話を聞くと、さらにご飯がおいしく感じた。ただ、困り事が発生した。健康診断で体重計の数字がかなり上がっていた。

◆50年の孤独

 三億円事件といえば昭和史に残る未解決事件。東芝社員のボーナス三億円を運ぶ現金輸送車が府中刑務所裏の道路で、白バイ警官を装った男に車ごと奪われた。事件から五十年となる昨年十二月十日に向け、昨夏から取材を始めた。

 半世紀前の記事で、犯人が乗り捨てたとみられる車を見つけた人を住所から捜すも、建物が増えて住民が入れ替わり、見つからない。親戚にたどりつけど、既に亡くなっていた。

 毎週のように現場の道路を通った。灰色に見えた刑務所の塀が最近、白く塗り替えられたように感じ、刑務所に尋ねると、「もとから白です」。夏は汗をぬぐい、冬は寒さに震えて歩き回り、私の心がグレーになっていたのかもしれない。

 当時を知る何人かの住民に話を聞いて記事にはできたが、はかどらない取材に経過した年月の長さを痛感した。

◆地元をなめるな

 「なんで、地元の記者を排除するのか」。多摩市の多摩ニュータウンであった自動運転バスの運行実験で、都は「試乗は都庁担当の記者に限る」という。「私が取材する」と言っても、らちが明かない。

 「都の対応はおかしい」と言いながら、「都が金を出す事業だから仕方ない」と冷めた市職員にも腹が立った。

 都は「多摩地域重視」と言うが、根底では予算に物言わせて市を見下しているのではないか。地元記者も、市も、ないがしろにしないでほしい。交渉の結果、試乗はできたが、怒りが収まらない。多摩をなめるな。

<松村裕子(まつむら・ひろこ)(51)社会部記者> 石川県出身。1990年入社。町田通信部勤務。東京都町田、府中、日野、多摩、稲城市を担当。多摩丘陵と多摩川になじみ、地元のおいしいものを探している。

 

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