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【私説・論説室から】

高橋選手への贖罪込めて

 スケートリンクの中央で大きな拍手に包まれた高橋大輔選手が、ピアノを弾き終えた塩入俊哉さんに向かって一礼し、拍手を送った。昨年十二月二十五日、フィギュアスケートのエキシビション「メダリスト・オン・アイス」での一幕だ。

 三十二歳で昨年に四年ぶりに現役復帰した高橋選手は、その前日に行われた全日本選手権で2位。それほどの上位に自分が入るとは思わず、エキシビションの衣装も用意していなかった。そんなバタバタの状況で、塩入さんは高橋選手が希望した楽曲をアレンジし、練習し、繊細ながら力強い響きのピアノソロで会場を魅了する演技を引き出した。

 「今回の復活は、すべてを乗り越え、よくぞ戻ってきてくれたと、うれしくてたまらなかった」。こう振り返る塩入さんは、高橋選手に特別な思い入れがある。二〇一四年ソチ冬季五輪の直前、高橋選手がショートプログラムで使用する楽曲がゴーストライターの手による作品だったことが発覚した。高橋選手は「楽曲に罪はない」と曲を変更せず臨んだが、エキシビションの音楽監督を毎年務める塩入さんの心には「日本の音楽界が足を引っ張ってしまった」との思いが強く残った。

 音楽界に身を置く一人として、贖罪(しょくざい)の思いを込めて奏でたピアノソロ。その気持ちを感じ取った高橋選手。三分間の演技にはドラマが詰め込まれていた。 (鈴木遍理)

 

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