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【私説・論説室から】

イチローとマック鈴木

 それは意外な答えだった。

 二〇〇一年の9・11米中枢同時テロの直後、大リーグ・マリナーズの本拠地シアトルに行った時の体験である。

 早く日常を取り戻そうと大リーグが再開した中でイチロー選手の地元を取材した。

 そこに住む日本人たちに会った。レストランや仕出し料理業を営む人、文具デザインの企画を手掛ける人、貿易業を営む人など自身で事業を手掛ける人たちだった。

 当然、イチロー選手のファンに違いないと思い込んでいた。そう聞いたら、少し前までマリナーズにいたマック鈴木投手のファンだと口をそろえた。

 日本のプロ野球界を経ず米球界入りした選手で、日本ではあまり知られていなかった。大リーグではマイナーリーグで苦労してメジャーにはい上がった人だ。

 だから最初からスターのイチロー選手より距離が近かった。外交官や日本企業の駐在員たちと、自力でこの地に根を張る人たちとは日本人社会の見えない階級があるのではないか、と実感した。そんな人たちの機微が見えていなかった。

 スポーツファンは観戦を楽しむだけではない。自分の人生と選手を重ね合わせもする。

 イチロー選手引退の報を聞いて思い出がわき上がってきた。あの時会った人たちは今、誰を応援しているだろうか。 (鈴木 穣)

 

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