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【私説・論説室から】

祖母と孫娘の個展

 絵は下手なのに眺めるのは好きで、時間があると画集を広げたり展覧会に足を運ぶ。絵画の購入にも何度か挑戦した。

 かれこれ十年前、亡くなった親父(おやじ)の預金の整理でたまたま現金百万円を手にした。そのままお金で取っておくよりも親父の思い出に何か形にできないか。そう思案していた正月の朝、「絵画のお年玉袋 藤田嗣治のリトグラフ三点 百万円」の百貨店のちらしがわが家に舞い込んだ。

 正月気分も手伝って「これだ!」。昼前、日本橋の百貨店の美術品売り場に駆けつけると、すでに購入希望者が何人も集まっている。抽選になるという。結果を待つ間のあのドキドキ感。そして迷い。

 実は家人の冷たい視線を「親父の形見にする」とくぐり抜けて家を出ていた。藤田嗣治。当たってほしい。でも百万円。ハズレればひと騒動は避けられる…。

 祖母二人と孫娘。三人が東銀座の小さな画廊で個展を開く。

 私の母八十八歳は油絵で人形や静物。家人の母九十歳は日本画で満開の桜やキキョウ。プロには遠く及ばないけれど、絵には一枚一枚に人生が凝縮している。

 戦争責任を問われて日本を去った藤田。女学生時代に戦火をくぐり抜け、戦後を生きてきた祖母二人。平成育ちの三十代の孫娘。長寿の時代のささやかな個展。 (安田英昭)

 

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