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【私説・論説室から】

「林住期」の森をいでて

 インドには人生を四季に分ける考え方がある。生きる知恵を身に付ける「学生(がくしょう)期」、家庭を持ち社会参加する「家住期」、得た財産や家族を捨て森で修業をする「林住期」、定住せず巡礼の旅を続ける「遊行期」だ。

 五十代で仕事をやめ世界中を旅する女性がいる。金井重(しげ)さん(91)だ。初めて会ったのは二十年前、一人旅がスタイルで訪問国は既に百を超えていた。好奇心の赴くままの旅の話に魅了され、紹介記事を書いた。当時「今、林住期にいる」と語っていた。その後、どんな旅を続けているのか気になっていた。

 久しぶりに会うとそのスタイルが変わっていた。「足元を見つめ直す気持ちが強まった」と国内に関心が向いていた。訪問先で感じたことを歌集「町姥(まちんば)のうた」にした。東北の被災地で「三陸をことこと走る鉄道の客は被災者静かに座せり」と詠んだ。沖縄、尖閣諸島の歌まである。困難を抱えた人や場所にそっと寄り添う歌が並ぶ。そこには森を出て巡礼を続ける遊行期の姿があった。

 それは世を捨てた旅ではなく、社会の最前線に立ちその変化を見守ることだ。そう気づいた。人がより良く生きるにはその変化に目を向ける。長い旅路から得た実感のようだ。別れ際にその方法を尋ねた。

 「現場で出会う人と一緒に悩むこと。あなたと私の違いはあなたの若さね」。家住期の自分へ宿題をもらった気がした。 (鈴木 穣)

 

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