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【私説・論説室から】

楽しませて勝つ

 机の引き出しに扇子を入れている。扇面には「楽勝」の文字。木村一基新王位から十年前にいただいたものである。

 四十六歳で初のタイトルを取った木村さんだが、十年前も王位戦に臨んだ。本紙主催で、私も運営に関わっていた。

 木村さんは「顔面受け」で有名と聞いた。顔面受けとは、王様を受け(守り)に参加させること。木村さんは新人王戦決勝で、王様を寄せ(終盤の攻め)にも使って勝ったという。素人将棋ではありそうだが、プロ棋士には驚くべき手だそうである。

 残念ながら、木村さんは三連勝後に四連敗して戴冠はならなかった。関係者で激励会を開こうという話になった。会場は下町のギョーザの店だった。笑顔が優しく、飾らない人柄。そんな木村さんらしい場所だった。扇子はそのとき、いただいた。

 まさに苦杯を喫した後に「楽勝」という揮毫(きごう)。その意味を考えた。

 楽に勝つ

 楽して勝つ

 楽しんで勝つ

 今回の王位戦の盛り上がりを見て「(観客を)楽しませて勝つ」だと気付いた。

 囲碁や将棋では、人工知能(AI)が強い。だが、楽しめるのは棋士が指す将棋だということを再認識させてくれた。

 木村王位、おめでとう。 (井上能行)

 

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